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「え、うそ」  彼女が顔を上げ、瞳の中に僕を包み込む。 「作った?」 「作っ、た」 「汐田くんが」 「うん」 「……すごーい」  彼女は弁当箱の中のもう一つの卵焼きを見て、それからもう一度僕に視線を向けた。  真っ黒なはずの彼女の瞳がなぜだか眩しい。それで少し視線を下げると、不揃いに割れた割り箸が目に入った。先端から四分の一程度が、湿って変色している。 「あのさ」  心臓が、加熱され膨らんでいる。  うまく言えないけれど、僕の今までの人生で初めて、「見つけた」ような気がした。 「ここに来たら、また君に会えるのかな」  彼女は無言のまま、何度か瞬きをした。  秋風が雲を運び、柔らかな日差しが彼女の半身を鮮やかに照らす。紺色のスカートの表面で、細かい埃がちりちりと煌めいていた。  ——翌日から、僕は一人分よりも少し多く弁当を作るようになった。
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