35人が本棚に入れています
本棚に追加
「え、うそ」
彼女が顔を上げ、瞳の中に僕を包み込む。
「作った?」
「作っ、た」
「汐田くんが」
「うん」
「……すごーい」
彼女は弁当箱の中のもう一つの卵焼きを見て、それからもう一度僕に視線を向けた。
真っ黒なはずの彼女の瞳がなぜだか眩しい。それで少し視線を下げると、不揃いに割れた割り箸が目に入った。先端から四分の一程度が、湿って変色している。
「あのさ」
心臓が、加熱され膨らんでいる。
うまく言えないけれど、僕の今までの人生で初めて、「見つけた」ような気がした。
「ここに来たら、また君に会えるのかな」
彼女は無言のまま、何度か瞬きをした。
秋風が雲を運び、柔らかな日差しが彼女の半身を鮮やかに照らす。紺色のスカートの表面で、細かい埃がちりちりと煌めいていた。
——翌日から、僕は一人分よりも少し多く弁当を作るようになった。
最初のコメントを投稿しよう!