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 僕という人間を一言で表すなら、「エリート家系の落ちこぼれ」だ。  祖父は大学教授、父は官僚で、父のきょうだいもそれぞれ大企業の重役であったり国の中枢に関わるような仕事についている。もちろん大学は全員それなりに良いところを出ていて、男子は父までの数代が全員日本最高学府のT大出身者だ。  父の血を引いているはずの僕はなぜか頭の出来を受け継ぐことができず、いとこの中でも一番偏差値の低い高校に通っている。親戚の叔父さん・叔母さんたちが事あるごとに僕について「のんびりタイプ」と評することを、きっと父は面白く思っていない。  勉強以外もこれと言ってぱっとしない僕にとって、唯一「趣味」と言えるのが料理だ。けれど、僕が勉強以外のことに時間を使うことをよしとしない父の方針に従い、父の見ている前で台所に立つことはほとんどない。    僕が自宅で楽に呼吸できるのは、父の寝ている早朝に行う弁当作りの時間だけだった。
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