コジロー?

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コジロー?

 ――神様?  まぶしいけれど柔らかな光が僕の部屋を一瞬包み込んだかと思うと、すぐにいつもの僕の部屋の風景に戻った。  たった一つを除いて。  えっ。  ウソですよね?  確かに願いました。  コジローと話が出来たら良いのにと。  こんな形とは聞いていません。  今、僕の目の前には50代の小太りのおじさんがいます。  上下茶色の肌着に白いスニーカーソックスを履いた50代くらいで小太りで、白髪交じりの茶髪のおじさんが、ソファに座ってくつろいで……。  それで。  頭には、某テーマパークの〇ッキーのような、猫耳のカチューシャを付けていて、どう控えめに見ても変態にしか見えません。 「あの」  恐る恐る、話しかけてみます。 「なんや?」 「あなたは?」 「何言うとる。コジローやないか。お前さんの、可愛いが過ぎるコジローや」 「何で関西弁なんですか?」 「疑問はそこかい!」 「コジロー……さん」 「なんで敬称付けるねん。いつもの呼び方でええ」  いつも。  あれ?  なんて呼んでたっけ? 「今日は……言ってくれんのか?」  おじさんが、しょんぼりとした感じで僕に問いかけてきます。 「な、何をです?」 「そんな畏まるなって。ほら、いつもの……」  いつもの……。 「コジロ〜たん!今日も世界一キャワイイねぇ〜っての」  おじさんの裏声を聞いて、鳥肌が立ちました。  僕はいつも、こんな風にコジローに接していたのです。  おじさんほどではありませんが、僕も若くはありません。客観的に見せつけられて、キモいと思ってしまいました。 「まあええわ。あれいつもウザって思ってたから」 「申し訳ありませんでした」  気持ちがわかって、思わず心から謝罪しました。 「でもあれよ?お前さんの、気持ちはいつも、ちゃんとワシに伝わってるんやで?」 「気持ち?」 「お前さん、ワシの事、好きで好きでたまらんやろ?」  確かに、コジローにはメロメロで、好きすぎるのは間違いないのですが。 「あ、はは」  茶色の肌着の猫耳おじさんにスリスリされて、固まってしまいました。 「ワシをここに連れてきてくれて、大事にしてくれて、ありがとさん」 「そう、言っていただけるなら……良かったです……?」   「ところで腹減ったな。メシ」 「あ……今何もないから、コンビニで何か買ってきます」 「なんでや。いつものあるやないか」 「え?……まさか、カリカリ?」 「まあ、たまには高い缶詰も食べたいけどな。今日はいつものでええで」  そうは言っても体の大きさは今の僕よりも大きいくらいだから、いつものカリカリでは……。  と思っていたら、カリカリの袋をポテチの袋のようにガバッと開けて、スナックのようにむしゃむしゃ食べ始めました。  食べながら、靴下を片方脱ぎ捨てて足の指の間のゴミを取っています。  お世辞にも、可愛いとは言い難い……。  コジローと話せたらいいな、なんて、願いを気軽に口に出したことを後悔しています。  ていうか、何で神様、こんなに気軽に願いを叶えちゃうんですか。  僕は少し涙が滲んできました。 「はーよう食った。ウンコするわ」  言うなり、コジローおじさんは猫用トイレに跨ったのです。 「えっ!?いや、今の姿なら人間用のトイレを使っ」  遅かった。  悟りを開いたような表情で放出し、盛大に猫砂をトイレの外までまき散らしながら隠しています。  そして、本物のコジローなら、この後狂ったように室内を走り回るのですが……。 「ヒャッハー!ウンコの後はどうも気持ちが高まってしゃーないわ!」  50代のおじさんのウンコハイで走りまわる姿など見たくない!  お願いします。  もうやめてください。  僕の、僕の、コジローを返して――!
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