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 暴れようと思い切り腕に力を入れても、相手の手でシーツに縫い留められたそれはびくともしなかった。自分をベッドへと押さえつけ、馬乗りになる男を睨み上げ、ユズハは口を開いた。 「どうして、お前なんかに……! 離せよ!」  今にも噛みつきそうな勢いのユズハを余裕のある顔で見下ろすのは、アサギ・ミナナギという。現国王の弟で宮廷騎士団の団長をしている、この国では最も高貴なアルファだ。  オメガであるユズハは、今、男娼としてこの男に水揚げされようとしていた。  娼館としては、願ってもない初めての相手、お忍びでという待遇もあり、かなりの額を積まれたはずで、断るなんてことは一瞬だって考えなかっただろう。 『ユズハにとっても最高のお相手だろう』  娼館の女将はそんなふうに言って、ユズハを送り出した。  整った顔に男らしい体躯、極上のアルファと魅力あふれる彼になら、きっと誰でも抱かれたいと思うだろう。けれどユズハだけは違った。 王族でもお忍びでも何でもいい。ただ、この男以外なら誰だって受け入れた。アサギだけは嫌だった。  ユズハにとってアサギは、人生の中で二度と会いたくない人物だったからだ。 「暴れるな、怪我をするぞ。キレイなお前に傷は付けたくない」 「うる、さい! お前だけは嫌だ!」 「大人しくしていれば悪いようにはしない」  それなりに経験もある、と微笑み、ユズハの首筋に強くキスをする。赤い痕を残したそこに触れてから、ユズハの着ていたガウンの紐を解く。アサギの眼前に肢体を晒したユズハは、尚もアサギを睨んだままだった。けれどそんな目も気にすることなく、アサギはユズハの中心に触れる。 体が近づいたせいか、ふわりとアサギの香りがする。幼い頃、この香りがすると、全力で逃げた記憶しかない。それなのに、この香りに酔ったように頭の中が白くなる。 「少しはどうすれば得か、分かったか」  ユズハの体からゆっくりと力が抜けたことが分かったのだろう。アサギが胸にキスをして中心を扱いていた手をそのまま後ろへと動かす。既に濡れていた後孔は、指先を少し入れられただけで、くちゅ、と淫靡な水音を響かせた。それだけで泣きたくなる。  アルファに触れられただけでこんなふうに受け入れようとする、オメガの体が憎い。 「体は俺を受け入れるつもりらしいな」 「やだ……アサギ、やめて……」  ついにユズハの目から涙が零れる。けれどアサギはそれを端正な顔を崩すことなく見つめ、頬を撫でた。 「相変わらず、お前の涙はキレイだ」  それだけ言うと、指を再びユズハの秘所へと忍ばせ、ゆっくりとそれを開いた。巧みなその指はすぐにユズハの敏感な一点を捉え、そこを執拗に刺激する。  こんなヤツの指で感じたくない、そう思っているのに、段々と濃くなるアサギの香りと、その指がくれる刺激に、ユズハの息は上がっていった。頭の奥では、もっと刺激が欲しい、と叫んでいる。オメガの血のせいかと思うとそれすら辛かった。 「入れるぞ。俺の子を孕め、ユズハ」 「や、だ……やだ!」  ユズハの言葉なんか聞こえないのだろう。アサギがパンツの前を寛げ、そこから自身の中心を取り出し、ユズハの中へと入り込ませた。初めての感覚が怖くて手のひらをぎゅっと握ると、アサギは今まで押さえていた手を解き、ユズハの腕を自身の背中に廻させた。 「掴まってろ。すぐ済む」  質のいいスーツの上着をぎゅっと掴むと、アサギが耳元で、そうだ、とささやく。  ユズハは目を開けてアサギを見上げた。表情は少し辛そうだが、髪も乱れず、タイだってきっちりとしたままだ。なのにこっちは裸にされ、こんな喘がされてている。それがまた悔しくて、ユズハがぐっと唇を噛み締める。するとアサギの指が、そんなユズハの唇に触れた。 「かみ切ってしまったら困る。解いて、声を出せ」  アサギの長い指がユズハの唇を開き、そのまま少しだけ中へと入る。ユズハはその指に歯を立て、睨むようにアサギを見上げた。 「俺の指はかみ切ってしまってもいい。それでお前が楽になるなら、そうしろ」  ユズハに腰を打ち付けながら、落ち着いた声でアサギが言う。ユズハはそれに腹が立って、一度ぐっと指を噛んだが、やめて大きく息を吐いた。その代わり、アサギの着ているスーツの背に思い切り爪を立てる。 「この、スーツ、もう着れない、な」  爪で繊維を引っ掻いた感覚はあった。きっと跡になってもう着れないだろう。 「お前をそれだけ感じさせた証拠だ。部屋にでも飾るさ」  アサギが微笑み、ユズハの脚を抱え上げる。より奥に入る中心を感じ、ユズハが大きく喘いだ。それを聞いたアサギの動きが早くなる。 「出すぞ、お前も一緒にいけ」  アサギの手がユズハの中心を扱く。本当はアサギの言いなりになんかなりたくないのに、体はその命令に従うように、絶頂を迎えて果てた。
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