失恋、そして出会い

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天に神様というものがいるのなら、雨でも降らせてくれたらいいのに。 低く垂れこめた雲は、大いに水分を含んでいるようだが、涙を洗い流す粒は落とさない。 私は巨大パネルを前にして、手の甲では拭いきれない悲哀に泣き続けた。悔しさ、怒り、それ以上の何かを言葉には変換できず、美しい女性を妬み、恨み、泣いた。わああっと真っ直ぐ空に伸びた声に全ての感情を乗せてから、熱い塊を落とす目をぎゅっと閉じて、叫んだ。 「()(くら)のばか───っ!!」 つい先ほど、私は二年間付き合ったカレにフラれた。 三倉は同じ高校の先輩で、同じ大学の先輩でもあった。私たちは高校在学中に出会い、恋をした。 とても気の合う男だった。趣味とするものは違っていたが、根本にあるものは同じだと思える人だった。互いに閉塞感を抱えていて、少なからず自殺願望も持っている。目立つことが嫌いで、人付き合いも下手。いつも文庫本を携帯し、晴れた日には校内にあるベンチで読書に興じる。空想の中に生き、あまり授業に出ないところもよく似ていた。 私の趣味は、気に入った小説の一場面を絵に描くことだった。三倉の趣味は、気に入った小説にテーマソングをつけることだった。でも、私はあまり絵心がなく、三倉の音楽の趣味は偏っていた。器用になれないところが良かった。ちょっとずつ会話を重ね、交際を始めるまでに二年かかった。初めてキスをするまでにも、半年以上の月日を要した。 私たちはまるで亀みたいに歩みが遅かった。それがとても心地良くて、緩やかな流れの中を遊泳するウミガメになった気分でもあった。早ければ出逢った日にセックスする男女もいる世界で、三倉と肌を重ねたのは手を繋ぐ瞬間だけ。セックスをする雰囲気になっても、私たちは話題を変え、そんな予感などなかったように微笑んで家に帰る日々だった。
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