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 雨に情はない、突き刺すように私の体温を奪っていく。 ただこの雨が止んでしまったら、私は少女に逢えないような気がした。  パトカーのサイレンを避けるように路地裏へ逃げ込む。 何も持たずに飛び出してきた私が頼れるものは、自分自身の体力と勘だけ。致命的な状況。 「次は私が『行方不明の女性』って報道されちゃうのかな、あんな意味深な置き手紙なんて残して……ほんと、馬鹿みたい」  自分自身の無謀さを馬鹿馬鹿しく笑ってしまう。 目の奥が痛い、改めて頬が濡れる感覚はない。 私はずっと不可能にする理由を探して生きてきたような気がする。 夢だった小説家は現実的じゃないという理由で捨てた、大学進学は妹の学費のためという取ってつけたような理由で諦めた、四年付き合った彼との結婚も私の曖昧な態度によって無いものとなってしまった。 生きたフリをして、何一つこの世界に跡を残していない私は誰の中で息をしてきたのか。下がる体温に死期を感じて思考を巡らす。 「イトの中では生きていられたのかな……」  たった数分言葉を交わした、独りの少女に私の命の価値を預けて目を瞑る。 雨に刺されながら、朦朧としていく感覚を記憶する。これが、私の最期の記憶。
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