子狸の恩返し

3/7
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 里にもどった子狸は、母さん狸に叱られます。  今日ばかりは子狸もしおしおになって、ごめんなさいをくりかえしました。  ヒリヒリと痛む足を()めながら、子狸はかんがえます。  あの人間は、どうしてじぶんをつかまえて食べなかったのでしょうか。  いくらかんがえても、わかりません。  わからないのであれば、しらべてみればよい。  好奇心旺盛な子狸は、そんなふうにかんがえました。  その好奇心のせいで罠にかかってしまったのですが、そんなことはすっかり忘れて、人間の住む場所へ出かけてみることにしたのです。  とはいえ、さすがの子狸だって用心します。  覚えたてのちからをつかって、人間の子どもに化けることにしたのです。  こうしておけば、狸だと知られることもなく、人間のところへ行くことができるでしょう。  さて、あの人間のおうちは、どこだろう?  途中の道で引き抜いたススキを振りながら歩いていると、おなじくらいのおおきさの子どもたちが通りすぎていきます。  はて、じぶんはあの子どもたちとおなじように見えているでしょうか。  地面に落ちる影をかくにんして、子狸はうんとうなずきます。  だいじょうぶ、ぴょこんと耳が飛び出ていたりはしません。だいじょうぶです。  しばらく歩いておりますと、道ぞいに伸びている生垣(いけがき)の向こうから、声が聞こえることに気がつきました。その声は、このまえ聞いたやさしい声によく似ているようです。  こっそり生垣のすきまからのぞいてみますと、そこにはあの人間がいました。  庭には立派な木があり、ハラハラとたくさんの葉を散らせています。  あつめてふかふかの布団にすれば、とてもあたたかくて気持ちがよいことでしょう。飛びこんであそぶのもたのしそうです。 「そこにいるのは誰だい?」  興奮して顔を出してしまったため、どうやら見つかってしまったようです。  逃げようとする子狸でしたが、おばあさんの声がとてもやさしかったものですから、ついつい立ち止まり。けれど大木の影に隠れて、こっそりようすをうかがいました。 「おや、見かけない顔だねえ。どこの子どもだい?」  子狸は、なんと言ったものかと黙っておりますと、どこから来たのかと問われます。  お山の方角を指さしますと、おばあさんはうなずきました。 「そうかい、山向こうの町の子どもなのかい。だれかの家に、あそびに来ているのかい?」  よくわからないなりに、子狸はうなずきました。  するとおばあさんは、そうかいそうかいとうなずいて、手招きました。 「おイモを()かしたところだったんだ。ぼうや、食べるかい?」  イモと聞いて、おなかがぎゅるるとなりました。  おばあさんはにっこり笑うと、もういちど手招きをしたのでした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!