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里にもどった子狸は、母さん狸に叱られます。
今日ばかりは子狸もしおしおになって、ごめんなさいをくりかえしました。
ヒリヒリと痛む足を舐めながら、子狸はかんがえます。
あの人間は、どうしてじぶんをつかまえて食べなかったのでしょうか。
いくらかんがえても、わかりません。
わからないのであれば、しらべてみればよい。
好奇心旺盛な子狸は、そんなふうにかんがえました。
その好奇心のせいで罠にかかってしまったのですが、そんなことはすっかり忘れて、人間の住む場所へ出かけてみることにしたのです。
とはいえ、さすがの子狸だって用心します。
覚えたてのちからをつかって、人間の子どもに化けることにしたのです。
こうしておけば、狸だと知られることもなく、人間のところへ行くことができるでしょう。
さて、あの人間のおうちは、どこだろう?
途中の道で引き抜いたススキを振りながら歩いていると、おなじくらいのおおきさの子どもたちが通りすぎていきます。
はて、じぶんはあの子どもたちとおなじように見えているでしょうか。
地面に落ちる影をかくにんして、子狸はうんとうなずきます。
だいじょうぶ、ぴょこんと耳が飛び出ていたりはしません。だいじょうぶです。
しばらく歩いておりますと、道ぞいに伸びている生垣の向こうから、声が聞こえることに気がつきました。その声は、このまえ聞いたやさしい声によく似ているようです。
こっそり生垣のすきまからのぞいてみますと、そこにはあの人間がいました。
庭には立派な木があり、ハラハラとたくさんの葉を散らせています。
あつめてふかふかの布団にすれば、とてもあたたかくて気持ちがよいことでしょう。飛びこんであそぶのもたのしそうです。
「そこにいるのは誰だい?」
興奮して顔を出してしまったため、どうやら見つかってしまったようです。
逃げようとする子狸でしたが、おばあさんの声がとてもやさしかったものですから、ついつい立ち止まり。けれど大木の影に隠れて、こっそりようすをうかがいました。
「おや、見かけない顔だねえ。どこの子どもだい?」
子狸は、なんと言ったものかと黙っておりますと、どこから来たのかと問われます。
お山の方角を指さしますと、おばあさんはうなずきました。
「そうかい、山向こうの町の子どもなのかい。だれかの家に、あそびに来ているのかい?」
よくわからないなりに、子狸はうなずきました。
するとおばあさんは、そうかいそうかいとうなずいて、手招きました。
「おイモを蒸かしたところだったんだ。ぼうや、食べるかい?」
イモと聞いて、おなかがぎゅるるとなりました。
おばあさんはにっこり笑うと、もういちど手招きをしたのでした。
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