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友達から始めませんか
「と…、友達から始めませんか?」
彼の口から出たのはその言葉だった。
そんなこという人、今時いるんだ…。
「いいよ?だって、もう、友達じゃん?あたしたち。」
そう言ったら、彼は顔を上げてすごく嬉しそうに笑った。
なんでそんな嬉しそうな顔するのよ。まあ、嬉しそうな顔って言ったってさ。正直よく見えないんだよね。その分厚いレンズのメガネと、鼻まで隠れそうな前髪でさ。だけど口はおもいっきりだらしなくゆるんでる。嬉しそうに口許をほころばせて笑いながら。
そんな嬉しいんだ…、友達って言ったくらいで。
ある日彼が突然、二人きりで。
緊張しながらあたしに告白してきた。
だけど、そのセリフはちょっと予想と違った。
普通ならさ、好きです、とか?
付き合ってください、とかじゃない?
なのに彼は、すごい緊張して、歯をガクガク言わせながら。
何を言われるかと思ったら。
友達からはじめませんか?だって。
いるんだ、今時、そんなセリフいう人。
昔の昭和のドラマとか、古い本で目にしたセリフだよ。
今時この言葉いう人、いる?だってさ。もう、とっくに友達じゃない?あたしたち。
いいよって、軽く返事をした時の彼はこっちがビックリするくらいの満面の笑み?で返してきた。といってもその表情は隠れててよくわからないけど、雰囲気から?多分そんなかんじ。
すごく嬉しそうな弾む声で。
そんなに嬉しい?友達になれて。
「よかった…。じゃあユカさん、僕たち今日から友達だ…。」
彼はほっとした様子でそう言った。
あたしはもう、友達だと思ってたし、だからなんだかへんな感じ。
なんだ、あたしとは恋人じゃなくて、友達に、なりたいのか…。
告白でもしてくるような勢いだったから、なんだか肩透かしを喰らった気分。でも、まあいいか。こんなに喜んでくれたんだし。
そうか。単に…。友達、欲しかったのか…。
最初はなんだこいつ、と思った。
へんな人。それが彼の第一印象。
メガネの上に被っちゃってる前髪が、目を隠すみたいに覆っていて、顔の表情なんか、ちっとも見えないし、いつもなんか、動きがへんで、挙動不審。
大きなリュックをいつも背負ってて。
音もなく静かに教室に入ってくる。
そして誰とも目も合わさず、誰とも口もきかず、黙ってあたしの隣に腰かける。
ここが彼の席だから。
仕方ない。
彼が英語のテキストを忘れたから。
仕方ない。
見せてあげた。
それから話すようになって。
今に至る…。
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