成仏させて

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成仏させて

 暗く静かな夜、ある村の外れにある古びた森で、若い女が一人で歩いていた。彼女は「幽霊の松」と呼ばれる木に向かってずんずんと進んで行った。幽霊の松、何かしら不遜なところとして、避けられている場所だった。  だが、幽霊の松という由来はなんなのか。女は惹かれるように、真相を突き止めたくなっていた。何故、幽霊の松に興味を持つのか。女は、避けられている幽霊の松に惹かれるのは、何かしら因縁でもあるのだろうか。    月明かりが松のそばに差し込んだ頃、女は、古びた松を発見した。 「これは間違いない、あの松」女は満足そうに呟いた。  すると、松の周りで強烈な風が吹き、不気味な囁き声が聞こえて来た。  女は、少し怯えながらも前進し、松の根元に埋まっている何かを見つけた。それは、古びた日記だった。女は、日記を手に取ってみた。  日記には、「幽霊の松」の由来となった出来事を語ると題してあった。そして、ページを開いてみると 「幽霊の松の秘密は、お前がよく知っているはずだ」と殴り書きがしてあった。  女は、それを読むとわなわなと震え出し、 「ああ、それは…呪いを解く鍵…」と言ったと同時に松の下に崩れ落ちた。  幽霊の松、それは女の化身だった。女は自らを発見してしまった。  遡れば、女は昔、この松の下は愛する男と逢引をする場所だった。それは、女にとって至福の時でもあったのだ。だが、その至福は長く続かなかった。恋人は、事故に巻き込まれ、呆気なく死んでしまったのだ。  以後、女は狂ったように松の下に来ては、ふらふらと身体を揺らし、近くを通った者を威嚇したりと驚かせていた。やがて、その女も松の下で狂い死んだ。  それからというもの、風吹く夜にこの松のそばを通ると、女の幽霊が化けて出ると噂されていたのだった。 「成仏させて」  輪廻の如く、女は揺れ続けていた。救いの手は、自らの中にある。それが真実だった。   数年後 幽霊の松と呼ばれていたところに陰陽太極図を思わせる石が二つ、ぽつんと置かれていた。 誰が置いたか、知る由もない。     
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