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いつもは侍女の服を着ているセレーナだが、今夜は豪奢な紫色のドレスを着ている。
目元を覆っていた前髪を切り揃え、薄化粧をほどこした彼女は、見違えるほど綺麗になっていた。
(王子に見初められ愛されて美しくなっていくなんて、まるでセレーナが物語の主人公みたいじゃない)
ベアトリスは苦々しい気持ちを抑え、静かに問いかけた。
「セレーナを婚約者に? 殿下は私がいながら、彼女と情を交わしていたと?」
「お前にとやかく言われる筋合いはない。俺は、虐められて神殿の中庭で泣いていたセレーナを慰めてやり、『色々』と相談に乗っていただけだ」
「色々と相談……?」
訝しげな顔をするベアトリス。
フェルナンが右手を挙げ「例の物をこちらに」と合図すると、家臣がテーブルの上に小箱を置いた。
中に入っていたのは、美しい青色のラピスラズリがついた、ベアトリスの母親の形見のネックレス。
母の死後、壊れたチェーンを父がわざわざ腕利きの職人に命じて修繕させた宝物。
化粧箱に入れて大切に保管していたはずなのに、ここにあるということは……。
「セレーナ、まさか貴女が盗んでいたのね。本当に最低……!」
吐き捨てるように言うと、セレーナがいっそう顔をこわばらせる。目に涙を浮かべる彼女を抱きしめながら、フェルナンがこちらを睨みつけてきた。
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