3章:転機の領地視察

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 婚約者時代ならいざしらず、今やフェルナンとは赤の他人。    派閥争いやアランの人となりについて、ベアトリスがあえて首を突っ込む必要はない。  とはいえ、この言い方から察するに、フェルナンはアランに劣等感を抱いている様子。 (あ~あ、面倒くさいけど仕方ない。なにか有力な情報を引き出せるかもしれないし、一応聞いてあげますか)  バスケットからクッキーを取り出してポリポリ食べながら、ベアトリスは澄まし顔で言った。   「愚痴、聞いてあげてもよろしくってよ」 「相変わらず高飛車なヤツめ。だが……意外に優しいところもあったのだな」  フェルナンは苦笑しながら、ぽつりぽつりと語り始めた。 「異母弟(おとうと)のアランは昔から、勉学も武術も俺より秀でていた。聡明で性格も良く、穏やかで……『アラン殿下が正当な血筋の後継者だったら』と家臣が影で話しているのを、何度聞いたことか」  今までは会えば同族嫌悪で喧嘩ばかりしていたため、思い返せばフェルナンの本音を聞くのはこれが初めてだ。  
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