1007人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
「……なんだと?」
眉をひそめるフェルナンに、ベアトリスはしみじみと続けた。
「他人と比べるのはやめたわ。だって、自分が辛くなるだけだもの」
「自分が辛くなる、か。たしかに……そうだな」
なにか思うところがあったようで、フェルナンは腕組みしてそう言ったきり、一言もしゃべらなくなった。
✻ ✻ ✻
小腹が満たされて眠くなったようで、向かいの席に座るベアトリスがうたた寝を始めた。それを見て、子供みたいな奴だな、とフェルナンは苦笑する。
婚約者として紹介された時、フェルナンはベアトリスではなく、その後ろに控えていたセレーナに目を奪われた。
泣いている彼女を偶然見かけ、密会を繰り返すようになってからは、守ってやりたいという想いが募るばかり。
妻にするのなら、可愛げのないベアトリスではなく控えめで健気なセレーナの方が良いのに……と何度思ったことか。
だが、理由もなく国王の決めた縁談を破棄できない。
フェルナンはセレーナに別れを告げようとしたが、その日、突然の相談に出鼻を挫かれた。
最初のコメントを投稿しよう!