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「俺は王太子であり次期国王であるぞ! 王位継承権を放棄した異母弟と比べて侮辱する不敬、到底許されることではない!」
フェルナンは背後に立つ衛兵から剣を奪い取り、鞘から刀身を引き抜いた。
「その罪、死をもって償え!」
辺りが一瞬にして騒然となり、護衛がフェルナンを止めるべく叫ぶ。
「殿下ッ! どうか、剣をお収めくださいませ!」
「うるさい、黙れ! 言葉を発した奴は誰だ! さっさと出てこい! さもなくば、ここにいる全員、残らず切り伏せてやるッ!」
「殿下がご乱心なされた……」
怯えと呆れの混ざった囁きが聞こえてくる。
(俺は次期王だ。アランには負けられない!)
感情まかせに剣を振り回したその時、ふと脳裏にベアトリスの声が響いた。
──『別に、勝たなくてもいいんじゃない?』
フェルナンは剣を持ったまま、立ちすくむ。
自分は本当にこのままで良いのだろうか……?
(もし隣にベアトリスがいてくれたら……止めてくれたのに……)
途方に暮れていると、ふいに会議場の扉が開き、ひとりの女性が入ってきた。
緩やかに巻かれた赤毛の長髪に大きな瞳、控えめに微笑む彼女は──。
(ベアトリス……来てくれたのか……!)
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