3章:転機の領地視察

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「わたし……心配で、来てしまいました……」  その口ぶりから、彼女が『本物』のセレーナだと瞬時に察する。   (王都の隠れ屋敷にいる彼女がなぜここに?)  疑問に思っていると、セレーナが近づいてきて小声で囁いた。 「報道を知って……いてもたってもいられず……」 「そうか。ありがとう、セレーナ」   「婚約者ですもの当然ですわ……どんな時も、ふたりで乗り越えます……」    孤立無援でささくれ立っていた心に、彼女の優しさが染み渡る。    セレーナの登場によりフェルナンが自然と剣を下ろしたことで、会場の張り詰めていた空気が若干やわらいだ。 「みなさま……父の件で、お騒がせしてしまい……申し訳ございません。詳細につきましては、後日、必ずお伝えします……」  両目に涙をにじませ深々と頭をさげるセレーナに対し、人々はそれ以上なにも言えなかった──。
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