3章:転機の領地視察

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 会場を後にしたふたりは、人払いを済ませた部屋で再会を喜び抱き合う。 「君のおかげで助かった」   「お役に立てたのなら……嬉しいです」  彼女のいじらしい姿を見ると、やはり自分が好きなのはセレーナなのだと実感する。   「わたし……もう、殿下と離れたくありません……」 「俺もだよ、セレーナ」 「それでは……身代わりは、もう終わりで……良い、ですよね?」  フェルナンがうなずくと、セレーナは嬉しそうに微笑み涙を流した。 「泣かないでおくれ」 「すみません……わたし、とても怖くて……あの子は、いつもわたしの大切なものを奪うから……殿下の心がベアトリスに向いてしまうんじゃないかと……」  セレーナが不安そうにこちらを見上げ、フェルナンの手を取って婚約指輪を撫でる。  内心、ぎくりとした。  事実、ベアトリスに心が傾きかけ、隣にいて欲しいと願っていたからだ。    フェルナンは不埒(ふらち)な己の心を隠すため、わざとベアトリスのことを悪しざまに罵った。   「やめろよ。あんな自己中心的で高飛車な女、俺が好きになるわけないだろう。今だって、俺が大変な思いをしているのに、まったく役に立たない!」
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