3章:転機の領地視察

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「黙れ! 改心したなどという言葉を信じようとしたのが間違いだった。お前は責務を放り出した挙げ句、あまつさえ再びセレーナを傷つけた。もう許せん! ベアトリス・バレリー、貴様を殺人未遂で断罪する!」 「だ、断罪…………」 「ちょうどこの領には大監獄があるな。おい、衛兵! この罪人を監獄へ連れていけ!」  無罪だと叫ぶベアトリスを、騎士が拘束して無理やり部屋から引きずり出した。 「もう大丈夫だよ、セレーナ。君を脅かす者は俺が排除する」 「フェルナン殿下……」    セレーナは瞳を潤ませて弱々しく頷いた後、担架に乗せられ処置室へと運ばれていった。    出ていく彼女と入れ替わりで、騒ぎを聞きつけた人々が続々とやってくる。  事態の収拾に追われるフェルナンには、婚約者の声などまったく聞こえていない──。     「ベアトリス。貴女には、悪女の異名がお似合いよ……」    あまりにも小さな女の囁きは、誰にも聞き届けられることなく、喧噪(けんそう)に紛れて跡形もなく消え去った。
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