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明らかに体調が悪いと分かっているくせに、看守は容赦なく「早く洗濯の仕事に戻れ」と命令してきた。
「おい、なにしている! さては、仮病を使ってサボろうとしているな。さっさと戻れ!」
「ちょいと待ってくださいな。聖女先生の顔が真っ青じゃよ。少し休ませてやらんと死んじまう。そんなことになったら、お役人さんも困るじゃろう?」
老人の指摘に看守はしばし考え込んだ後「仕方ないな」と呟いた。さすがに死なれてはマズイと思ったのだろう。
「休憩をくれてやる。ただし、十五分だけだぞ」
そう言って看守は救護室から出ていった。
「こんな若いお嬢ちゃんが強制労働させられるなんて、ひどい世の中じゃな。ほれ、飴ちゃんだよ。これでも食べて元気を出しなさい」
たとえ飴ひとつでも、物資の乏しいこの施設では菓子は貴重だ。いったいどこで手に入れたのだろう。
そう不思議に思っていると、バッカスと名乗った老人は「あぁ、それはね」と出処を話し始めた。
「聖女さん方がくれたんじゃよ。施しだって言っての」
「聖女……」
そういえば、昨日から聖女見習いの一団がこの施設に滞在しているらしい。
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