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内心パニックになるベアトリス。
しかし彼はこちらに見向きもせず、真横をすーっと素通りしてクローゼットの前で立ち止まった。
「え…………?」
「貴女の妄想は分かりましたから、少し静かにしてください」
そう言ってユーリスは至極面倒そうに、こちらに向かってなにかを投げてきた。
広げてみると、それは大きめのシャツと男物のズボンだった。
「風邪を引かないよう入浴を勧めただけです。他意はありません。女物の服は持っていないんで、着替えはそれで我慢してください。新品なんで清潔です」
淡々と事務的に説明されて、ベアトリスは「あ、はい」と大人しく頷くしかない。
(風邪を引かないようにって……私が追放された時、『失望した』って言ったくせに。今更どうして、こんな風に気遣ってくれるの?)
嫌われていると思った相手に、不意打ちのように優しくされて戸惑ってしまう。
「急に黙り込んで、どうかしましたか」
「私が病気になったとしても、貴方には関係のない事でしょう?」
「いいえ、貴女には健康でいていただかなくては困ります。してほしいことがありますので」
「さっきから、その『してほしいこと』ってなによ……? ハッ、やっ、やっぱり、いやらしいことを……!」
「違います」
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