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その当時、ユーリスの両親はすでに他界しており、家督は兄が相続していた。
若き新当主として公務に追われる兄の名代として、ユーリスは遠縁にあたるバレリー伯爵家の葬儀に参列した。
「この度は、お悔やみ申し上げます」
「ご足労いただき、ありがとうございます、ユーリス・ブレア様」
埋葬を終えて参列者に挨拶をする父親の横で、喪服に身を包んだベアトリスが小さくお辞儀をする。
泣きはらした赤い目に、沈鬱な表情。
まるで魂が抜けたように一点を見つめる姿がかわいそうでならなかったのを、今でもよく覚えている。
やがてパラパラと小雨が降ってきて、参列者は次々と教会内に入っていく。
だがベアトリスは母の墓の前から動かず、父親に手を引かれてようやく歩き出した。
教会では親族と、とりわけ夫人と仲の良かった貴族が中心となり、故人を偲ぶ会が行われた。
バレリー夫人とは挨拶を交わす程度の交流だったユーリスは、そろそろお暇しようと思っていた時、会場にベアトリスの姿がないことに気が付いた。
父親であるバレリー伯爵は参列者の対応に追われ、話しかける隙もない。
ふいにユーリスの脳内に不吉な考えが浮かぶ。
(まさか……悲しみのあまり母の後を追って……? いいや、まだ確証はない。とにかく探してみよう)
焦る気持ちを抑え探し回ると、廊下の窓からベアトリスの姿が見えた。
雨の中、傘も差さずふらふらとひとり、墓場方面へ歩いていく。
急ぎ彼女の後を追うと、ベアトリスは夫人の墓の前で、怒りも露わにひとりの少女を睨み付けていた。
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