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うずくまり身を守るセレーナに、ベアトリスは怒りのまま暴力を振るおうとした。
「やめろ、ベアトリス」
勢いよく振り下ろされた手をユーリスがとっさに掴むと、ベアトリスがハッとした顔でこちらを見た。
バレリー伯爵家の複雑な家庭事情は、ユーリスも耳にしたことがある。
伯爵の婚外子だと名乗る娘が突然やってきたことで、おしどり夫婦で有名だった伯爵夫妻の仲は険悪に。夫人は心を病んでしまい、このたび急死してしまった。
(この侍女が、噂の自称婚外子の娘か。……たしかに、バレリー伯爵とベアトリスに似ている)
ユーリスは、地面に倒れたままのセレーナを横目でちらりと見た。
「君、大丈夫か」
返事がないため、不思議に思って顔をのぞき込むと、セレーナはポロポロと涙を流して泣いていた。
「怪我はないか」
「はい……だい、じょうぶです……あっ……でも、お花が……」
転んだ時に落として踏んでしまったのだろう。地面には無残な姿になったマリーゴールドの花びらが散らばっていた。
呆然としているセレーナに手を貸し立たせてやると、後ろから掠れた声が聞こえてきた。
「貴方は、セレーナの味方なのね」
振り返れば、ベアトリスは両手を握りしめ、下唇を噛みしめてユーリスを睨み付けていた。
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