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「俺は誰の味方でもありませんよ。ただ、どんな事情があれ、暴力はいけない」
喧嘩の仲裁に入ったつもりだったが、ベアトリスは完全にユーリスを敵と見なしたようだ。敵愾心も露わに怒りの表情を浮かべている。
セレーナが怯えてユーリスの背中にさっと隠れた。
それを見て、ベアトリスが大きな瞳をますます吊り上げる。
「雨が強くなってきました。ふたりとも早く屋内へ。ベアトリス嬢、これを」
ユーリスは努めて優しく微笑み、ベアトリスに傘を差し掛ける。
だが、彼女はその手を思いっきりはねのけた。
パシンという乾いた音とともに、ぬかるんだ地面に傘が落ちる。
「ぁ……」
自分でも『やりすぎた』と思ったのか、ベアトリスは一瞬狼狽えたものの、次の瞬間にはユーリスから視線を外し、くるりと背を向けた。
「結構よ。セレーナに貸してあげれば」
そう言い捨てて、雨の中を走り去ってしまった。
それから、彼女と会う機会はなかったが、偶然の産物か、はたまた運命のいたずらか。
ふたりは神殿で、聖女と護衛騎士という形で再会を果たすこととなった。
そして皮肉なことに、ベアトリスの隣には相も変わらずセレーナがいる。
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