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(なんか、さっきから珍獣を観察するような目で見られているんですけど……?)
ベアトリスがちらりと視線を上げると、いまだ驚いたままの表情で固まっているユーリスと目が合う。
「ねぇ、さっきからどうしてそんなに驚いているの? 私、なにか変なこと言ってる?」
「貴女の口から『ありがとう』という言葉を日に何度も聞けるとは、思いませんでしたので」
「失礼ね。私だってお礼くらいはきちんと言うわよ」
そうは言ったものの、思い返してみれば……。
(私、神殿にいた頃、ちゃんとみんなに『ありがとう』って言っていたかしら?)
身を挺して守ってくれる護衛騎士、世話をしてくれる侍女、自分の元で修行する聖女見習いたち。
多くの人に助けられて生活していたのに、あの頃の自分は仕事をこなすだけで手一杯で、感謝も謝罪もきちんと伝えていなかった気がする。
伯爵令嬢で、王太子婚約者の上級聖女。高すぎる地位に甘え、気付かぬうちに他者を見下すような言動を取っていたのかもしれない……。
ここに来てから、ずっと他人に恨みを募らせるばかりで、自分自身の行動を振り返りもしなかった。
(改めて考えれば、私って結構、嫌な奴だったのかも)
その証拠に、追放が決まった時、誰もベアトリスの味方になってくれなかった。
もし自分に人徳があれば、誰かしら抗議の声をあげてくれたのかもしれない。
これまでの行いを反省して密かに落ち込んでいると、ユーリスがぽつりと呟いた。
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