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その場の全員を部屋の外へ追い出すと、室内は途端に静かになった。
カチカチと時計が秒針を刻む音がやけに大きく響く。
(あっ、もう、こんな時間。そろそろ夕食会に行かなきゃ)
支度のために鏡を覗けば、疲れ果てた自分の顔が映っていた。
ふわふわとした金髪に、くっきりとした大きなスカイブルーの瞳。まろやかな卵形の輪郭と、ぷっくりとした唇がトレードマーク。
亡き母がよく『私の娘は本当にかわいらしい。花の顔ね』と褒めてくれていたのを、今でも思い出せる。
ベアトリスは、名門バレリー伯爵家の一人娘としてこの世に生を受け、幼少期は両親にたくさん愛されて育った。
しかし今から数年前、幸せな日々は突如として崩壊した。
──あの気弱で泣き虫なセレーナによって。
『わたしは……バレリー伯爵の、娘です……!』
セレーナはある日突然やってきて、自らが父の隠し子であると主張し、屋敷の前で騒ぎ始めたのだ。
ベアトリスの父は、自分によく似たセレーナに驚きつつも、不貞行為を否定し追い返した。
だがセレーナは強情で、何日も門の前で粘り続けた。
変な噂が広まっては困るということで、両親はひとまずセレーナを使用人として屋敷に置くことに決めた。
それからというもの、優しかった母は別人のようにヒステリックになり、仲が良かった両親は喧嘩がちに。そしてとうとう母は心労がたたり、突然亡くなってしまった。
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