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「ベアトリス・バレリー。この場で、お前との婚約を破棄する!」
驚く私と父の目の前で、婚約者である第一王子のフェルナンが言い放った。
(いきなり婚約破棄ですって? いったい、急になぜ……?)
様々な疑問が頭に浮かぶ中、ベアトリスはただ一点、部屋に入ってきた異母姉を見つめた。
「どうして、セレーナがここに……?」
バレリー家を崩壊させ、ベアトリスから愛する母を奪い、さらに神殿ではことごとく足を引っ張る女が、いつもの気弱そうな表情でフェルナンの元に歩み寄る。
「貴女は、また私から大切なものを奪うのね……」
心のまま呟けば、セレーナがビクッと肩を跳ねさせ、そんな彼女を庇うようにフェルナン王子が目の前に立ちはだかった。
(なによ、私が悪役みたいじゃない)
「このような一方的な婚約破棄は、到底受け入れることはできません!」
異議を申し立てたのは、ベアトリスの父親であるバレリー伯爵だ。
「我が国には、『神聖な血を継承するため、王太子は聖女を伴侶として迎えるべし』という慣わしがございます。こたびの婚約はこれにのっとり、国王陛下がお決めになったこと。いくら陛下が病床におられるからといって、殿下の一存での破棄は認められませぬ」
「確かに父上の許可は得ていない。だが、そのかわり、代理で政務を取り仕切っている母上の承諾は得ている。俺はベアトリスとの婚約を破棄し──」
フェルナンは、後ろでおどおどしているセレーナに手を伸ばし、優しく引き寄せた。
「ここにいるセレーナを、新たな婚約者として迎えるつもりだ」
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