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「それにわたしは、天才のおもちゃになるつもりもない。からかうのはもうやめて」
面白半分なんでしょう。そうとしか思えない。だってこんないきなり…ショーステージで笑い者になるだけだ。
そんなの、いやだ。
「わかった、真剣にやる。真剣に頼む」
「へ……」
右手の5本が灰色に染まった時、そんな低い声が耳に届いた。
前を見ると、向かいの天才が真っ直ぐわたしを見ていた。
下の中、という線引きがどこでされているかはわからないけど、その艶めかしい黒色の世界には決して美しくもかわいくもない顔が映っている。
真剣にって…。
「頼む、俺らに任せてほしい。絶対に悪いようにはしない」
本当に、びっくりするくらい真剣な声だった。
黒い髪をふわりとなびかせて頭を下げられる。あの天才が、無能で平凡なわたしに、こんなことをするなんて神様すら予想してなかったんじゃないかな。
任せてくれって言われた。真剣なのは、ちゃんと伝わってくるからこわい。
これをどう断ればいいのか考えているわたしって悪者かもしれない。
「…ごめ、」
「無理」
「え、」
「俺たちのプロデュースでランウェイを歩く。その返事以外は受け付けねーから」
あれ。やっぱりマロンの話通りとてつもなく自己中でワガママで自分勝手?
反論できずにいるうちに、ブルーのライトに照らされた手じゃない方の手の親指に、なぜかさっきの灰色ではなくべつの…ビビッドなオレンジがのせられていた。
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