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「自分もそうだから言ってんじゃねえの?」
それでも、人は自分の価値相応のことしか似合わないに決まってる。
この人は自分は初めからできた天才ではなくて、努力をした秀才だ、と言いたいんだろう。そしてそんな自分をまわりに押し付けようとしている。
誰もが努力できるわけじゃない。
「努力がうまくできない人だっているんだよ…。人前を着飾って歩くだけかもしれないけど、そんなの、キセキがたくさん起きない限り、わたしの人生ではありえない」
だったら‟このままでいい”って思って過ごしていた方がいい。みじめな自分もつまんない自分も見なくて済む。なのにどうして、今まで一回も関わったことない人に見つかっちゃったんだろう。
ぜんぜん違うのに。
どうして、わたしが隠してきたことに気づいたんだろう。
「だから」
いつの間にかブルーのライトの中に入れられていた左手を表に出される。
「自分で努力できねえなら、俺が手伝ってやるって言ってんの」
これ以上何か言ったら、もう帰れなくなる。それに引き受けても、近いうちにきっと「あ、こいつじゃだめだ」ってわかると思う。それがわからないならモデルを見つける才能がこいつにはないってことだ。そんなことはないだろう。
きっと気づく。情けないこいつには無理だってわかるはず。
わたしなんかには荷が重い話だもの。
「…知らないからね、どうなっても」
「本番までに絶対、右手もカラフルにしてくれって頼ませてやるよ」
そんなのぜったい、ありえない話しだ。
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