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その目に怖気づいたのかついにキョーカの足が止まった。
固まってる。小声で「うちを挟んで喧嘩しないで…」と言っている。ごめん。
「おまえがいいっつってんだよ」
わたしがよく見かけていたこの男は、いつも余裕しゃくしゃくなすまし顔で校舎を歩いている姿だったり、得意げに自分の作品を披露している姿だったり、たくさんの表彰状をかかげる姿しかない。
だから、こんな切羽詰まった顔もするんだと、思わずぽかんと見上げてしまった。
ぼんやりしているうちにキョーカがわたしの手から逃げ出し教室の隅っこに行ってしまった。わたしもそっちに行きたい。でも、なんだか行けなかった。
足が動かないわけじゃなくて、…だってそんなふうに言われたの、はじめてだったから。
いい加減にしろよ。何回言えばわかるんだよ。っていうような、そんな強い言い方だった。だけどその言葉は、わたしの思考をやわらかくするのには充分だった。
「後悔しても…知らないよ」
「昨日と同じこと何回も言わせんな。俺を誰だと思ってんだよ。しねえよ。どんなやつでも変えてやる」
無理だと思っているわたしと、そのあきらめの心に訴えかけてくるようなことを言う天木千歳。
「でも迷惑かけるかもしれない…」
「呼んでも来ない方が迷惑だから今日みたいなのはやめろ」
「ご…ごめんなさい」
怒った顔をしてくるから縮こまっていると、その表情のままふいに頭を撫でられた。
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