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思った通り校舎の中にはまだたくさんの人が残っていた。
廊下ですれ違うたびに振り向かれたり、「え、天才と誰!?」「なにあの地味な子」なんて声も聞こえる。
なるべく隠れたくて天木千歳の高い背に埋もれるように視線を落とす。
「これくらいの視線で俯いてんなよ」
「う、うるさい、だからあんたと歩きたくなかったのに…っ」
「ちがう。みんなおまえを見てんだよ」
だから、それは地味なわたしが天才と歩いてるからで。
わたしのチカラなんかじゃない。
「どんな視線であれ、浴びろ。慣れろ。本番はもっとずっとすげーぞ」
なんだか楽しそうな声をしている。嫌がってるわたしの気持ちに寄りそおうとなんてぜったいしない人なんだな。わたしもあんたには何があっても寄り添えなさそうだ。
「慣れろなんて簡単に言わないでよ…」
「慣れるまで前にいてやるから、がんばれ」
何を言っても通じてない。どっと疲れる。
がんばれって、今までそれができなかったからこんなわたしになったんじゃん。
腹立つ。なのにどうしてこんなに、こいつが放つ言葉に泣きそうになるんだろう。もっと怒りたいのに、何も言えなくなる。
「辛くなったら息を深く吸って、みんなの視線をすくって食え」
「は…?」
「本番までにおいしく思えるようにしてやるから」
天才の思考回路はよく解らないな。
もういいや。これ以上何言ったってどうせ届きはしないんだから。
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