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泊めてくれ
仕事が終わるのは深夜1時、最後の客を見送り店内を片付けて外に出た。
冷たい風が頬を撫でた。
首をすくめジャケットの襟を立た。
電車は既になく、アパートまで30分。
背筋を伸ばし気合を入れて歩き出そうと一歩を出したその時・・・・・
「 嵐、泊めてくれ」
「だれ?」
「俺だよ、俺」
「泊めるような仲か?」
「 嵐、三日徹夜だったんだ。だから、泊めてくれ」
「だめだ、断る」
「何でだよ?女か?女がいるのか?」
「人見知りな奴がいるから、ダメなんだ」
「嘘だろ!なぁ、嘘だよな」
「ほんとだよ、俺以外に懐かないからダメだ」
「じゃあ、紹介しろよ」
「だから、人見知りだって言ってんだろ。じゃあな」
ぐずぐず喋ってる時間も無駄にしたくない、早く帰って眠りたかった。
そのままアパートまで急いだ。
階段を登り、鍵を開けた。
ドアを開け部屋に足を入れたと同時に男が入って来た。
「嘘だろ」
「紹介しろよ」
この男のしつこさを忘れていた。
「あらし、このバカにご挨拶しろ」
「あ、ら、し?」
俺より先に上がり込んだ男の後に続く、足元にまとわりつく俺の愛しいあらし。
「あらしだ」ニャオ!
あいつの目の前に突き出してやった。
「なるほどね」
ニヤつく男が手を伸ばしてあらしを抱いた、人見知りのあらしがおとなしく抱かれていた。
「可愛いじゃねーか」
「わかったら、帰れよ」
「泊まる、あらしの許可も出たし」
どこまでも勝手な男に腹が立つ。
だがなんと言ってもあいつが出て行かない事はわかっている。
無神経な男はどこまでも無神経だった。
「ところでさ、俺のことあんたはやめてくれよ、仮にも1年一緒に住んだ義兄弟じゃないか」
「今更義兄弟なんて言われても覚えてないし・・・・・あんたじゃなくて、なんて言えば良いんですか?」
「蒼志だろ」
「そうし」
逆らう気力も失せ、服を脱いで布団に潜り込んだ。
あらしも一緒に潜り込む。
疲れた身体は直ぐに夢の中に引き込まれた。
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