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蒼志
「 嵐、いつもの」
「いつもの?なに?」
「ジン・フィズ」
「俺を試したいのか?」
ジンの種類が違えば味も変わり、作る人が変わるとそれでも味が変わると言われるジンフィズは作り手の腕を試すカクテルだと言われている。
「まさか、 嵐の腕は知ってるよ」
「そうかよ」
氷の入ったタンブラーにジンとレモンジュースと砂糖を注ぎシェイクしてグラスに注ぐ。ソーダで満たしてステアした後レモンを飾る。
コースターを出してグラスを置いた。
蒼志は黙ってグラスを口に運ぶ。
「さすが」
そう言われて、少しだけ微笑む。
「こんなところで飲んでていいのか?」
「今夜は暇だ」
「飲んだら、帰れよ」
「今夜は泊まる」
「お断り」
当たり前のように言う蒼志に腹を立てながら、どこかで喜ぶ自分。
「じゃぁ、送るだけ」
「いいって、困るんだよ」
「何が困るんだ?」
「いい加減俺から離れてくれ。もうここへも来るな」
「嫌だ」
何もわかってない・・・・・俺の気持ちなんてどうでもいいと思ってる。
そんな態度にイラついた。
「蒼志・・・・・俺、お前のこと覚えてないって言ったよな」
「聞いた、だから?」
「覚えてないって事はお前は他人だ。これ以上近づいて欲しくない。他人とは必要以上に関わらないことにしてるんだ」
「だったらこれから始めればいいだろ」
「始めるって、何を?」
「俺と 嵐の関係」
「兄弟になるって?」
「違うだろ、俺のことを好きになればいいって事」
「蒼志を?」
「そう」
とっくに好きになってる、それすら気が付かないくせに・・・・・そう言ってやりたいのを、拳を握って耐えた。
「好きだけど」
「好きになってくれた?」
「うん、嫌いじゃない」
「だったらいいだろ」
「好きな人をみんな泊めるか?店の人も客も好きな人は沢山いるけど」
「その好き?」
「そう」
わざとらしくがっかりする蒼志に笑って誤魔化す。
「蒼志の好きは?」
「俺の好きは、キスする関係の好き」
「キスしたのは、子供の頃なんだろ?」
「俺にとっては同じなんだよ」
「今も?」
「今もキスしたい好きだよ、 嵐には分からない?」
「わかる訳ないだろ」
「分かれよ」
「分かった」
「 嵐もそうなれそう?」
「・・・・・なんとも言えない」
追い込まれて本音が出そうになって思わず黙った。
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