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逢いたい気持ち
逢えない間ずっと蒼志の事ばかり考えていた、今度逢えたら自分の気持ちを告げようと決心したのに来ない。
カウンターでお客を相手にしていても、ドアが開くたびに見てしまう。
そしてがっかりする自分………蒼志不足が加速して胸の中に大きな穴が開いたような喪失感。
そんな日ばかりが続いて、諦めの気持ちに無理やり自分を追い詰める。
ドアが開いても気にならなくなった頃、蒼志が俺の前に立った。
「嵐逢いたかった」
平然とした顔でそういう蒼志に腹が立ち、口にした言葉で蒼志を拒絶した。
「なに?」
「嵐、ごめん。忙しかったんだ」
「別に気にしてないから………」
「怒ってる?」
「別に………」
蒼志の顔を見れなくて俯いたまま続けた言葉は少しづつ小さくなり、ポタポタと落ちた涙が床を濡らした。
「嵐」
慌ててその場を離れバックヤードへ逃げ込んだ。
逢いたくてたまらないかった蒼志がやっと来たことで胸がいっぱいになった。
素直に逢いたかったと言えばいいのに、言えない自分に腹を立て逃げ出した自分に愛想が尽きた。
顔を洗ってカウンターに戻ると蒼志が心配そうな顔で見ていた。
その後は一言も話さず仕事を続け、閉店時間になって蒼志も店を出た。
片付けを終えて外に出ると、蒼志が居た。
「 嵐、お前の電話番号教えて」
「・・・・・なんで?」
「来れない時、声聞きたいから」
「俺も電話していい?」
「してくれたら、嬉しい」
「蒼志・・・・・逢いたかった」
「 嵐送って行く」
二人並んでアパートまで歩いた。
久しぶりなのに何を話せばいいのか緊張して言葉が見つからない。
蒼志も何も言わず、歩きながらたまに触れる手に意識が集中した。
アパートまで後少しのところで蒼志が立ち止まった。
どうしたのだろうと蒼志の顔を覗き込む。
「蒼志・・・・・どうした?」
「 嵐俺のこと好きになったか?」
「・・・・・逢いたかったって言ったろ」
「それじゃ、分からない。好きだってちゃんと言え」
「なんでそんな上から目線なんだよ」
「俺はお前より10歳も年上だ、当然だろ」
「探してたのは蒼志だろ?俺は覚えてないし」
「覚えてなくても好きになったんだろ?」
「・・・・・ダメなのかよ」
「 嵐もっと甘えろ」
「・・・・・だって・・・・・」
「来い!」
蒼志が両手を広げた、その大きな手と広い胸に飛び込んだ。
蒼志の手が 嵐の背中をギュッと抱きしめた。
「蒼志、ずっとそばに居て」
「わかってる。お前もずっとそばにいろよ、突然居なくなったら許さないからな」
「そん時はまた探して」
「バカ言うな、何年かかったと思ってるんだ。もう二度と離れるなよ」
階段を登り部屋のドアを開けた。
「送ってくれてありがとう」
「帰れって?」
「泊まる?」
「当然、あらしただいま」
俺より先に靴を脱ぎ俺より先に部屋へ入った。
あらしを抱き上げ、頬づりをする。
人見知りのあらしがどうして蒼志に抱かれるのか、不思議でしょうがない。
あらしの食事と水を交換して、俺より先に蒼志がシャワーを浴びた。
その後シャワーを浴びて、冷蔵庫の水を飲んだ。
見ると、既に蒼志は布団であらしと戯れている。
「蒼志、あらしは俺の猫だから」
「知ってる」
「俺と寝るんだからね」
「今夜もか?」
「・・・・・」
「 嵐は今夜は俺と寝るんだろ」
「そうだよ、だって布団は一つしかないからいつもそうしてるだろ」
「今夜はいつもと一緒か?」
「・・・・・違う」
「全然違うだろ、お前が俺のことを好きだと自覚した夜だぞ」
「自覚したのはずっと前だけど・・・・・蒼志が気が付かなかったくせに」
「そうか?だったら今夜は恋人記念の夜だな」
「恋人記念?何それ?」
「キスしても良いって事」
蒼志はあらしを膝から下ろし、嵐の手を引っ張った。
狭い部屋に敷かれた布団の上で、初めて蒼志とキスをした。
「緊張したか?」
「するだろ、初めてなんだから・・・・・」
「俺は何度もしたけどな」
「どうせ、誰とでもするんだろ」
「違うよ!お前だよ!お前と何度もしたの」
「子供の俺だろ、俺は覚えてない」
「俺は忘れてない、今も昔もお前は可愛いままだ」
「ほんと?」
「嘘言うはずないだろ?お前のことが忘れられなくて探したんだから」
「今もあの頃と同じ好き?」
「あの頃とは違うな」
「エッ!違う?」
「今の好きは・・・・・恋愛感情込みだ」
「なんだよ・・・・・俺は男だよ」
「だから何だ?男だろうと女だろうと俺は 嵐が好きなの」
「でも・・・・・蒼志もいつかは結婚するんだろ?」
「お前とな!」
目頭が熱くなって鼻の奥もジンと痛くなった、泣くなんてみっともないと思っても、そんな気持ちとは関係なく目は潤み始める。
うつむいた 嵐の眼から涙がこぼれ落ち、鼻水もダラダラと流れ出す。
喉の奥で我慢した嗚咽が漏れ出し、肩が震える。
とうとう我慢できずに声を上げて 嵐は泣き始めた。
母親が亡くなってからの五年分の寂しさが溢れ出した。
蒼志が両手で抱きしめ、もう一度キスをした。
優しい温もりに満ちたキスだった。
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