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親類縁者ですし詰めの宴会が始まった。
実際、精霊落としというよりは、島原の帰還を祝う向きが強かったようだった。
何故か、上座を陣取った馬鹿夫婦は、目に見えてイチャイチャしていた。
同行した志保を見て、数人のご近所のおばさんが、ああそう。という発言をもらっただけだった。
昔からそうだった。大抵、島原が大きな功績を残したとしても、ああそう。で終わってしまうのだった。
「降魔さん♡あーん♡お刺身ですよ♡大きなアラです♡魚の残りカスではなく、ハタ科の巨大魚です♡クエと混同されるので、一般的ではないですが、お味は最高でしゅ♡」
「うん♡美味いぞ♡勉強したんだな♡お陰で社主は恥をかかずに済んだ♡」
お前はどこかの美食漫画か何かか?
「前はグレすら知らなかったもんな♡興味がないことは、何1つ覚えようとしないこの蛇ちゃんめ♡鶏からだぞ♡諫早好みだもんな♡」
だだ甘に鶏からを諫早君の口に運んでいた。
「きゃあ♡私の好みを覚えていてくれたんでしゅね♡嬉しい♡まあ♡降魔さん降魔さん♡カッコいい降魔さんの浴衣が♡襟が緩くなっていましゅ♡ワイルドな胸板♡あーん♡カッコいいでしゅ♡ニュルンしていいでしゅか♡ニュルン♡」
浴衣の襟元の顔面を突っ込んだ嫁が。
「ああ!降魔さんが息をしてましゅ!クラクラしちゃう匂い♡カッコいい降魔さんが、胸を上下させて呼吸をしているのは、何故でしょう?♡そして、心臓が!心臓までどうしてなのか動いていましゅ♡ああんしゅてきな降魔さん♡大しゅき♡」
それは、この馬鹿が生きているからだろう何故か。遺憾ながら。
「あああ♡こんな可愛いお目々で俺を見つめちゃって♡可愛い諫早♡俺のお箸の使い方見る?」
「んきゃあ♡お箸でおっぱいの先っちょツンツンしちゃらめえ♡おっぱい吹いちゃいます♡やっと着られた私の浴衣なのに♡」
「ああ。前の伊豆の時は、浴衣なかったもんな。半裸エプロンに、その時ハアハアしなかった俺って♡島原!ちょっと中座するぞ!諫早の馬小屋が燃えちゃった♡ジジイ3匹が突入する前に消火に当たってくる」
「大人しく唐揚げでも囓っていろ!」
今度生まれる子供は、救世主か何かとでも言うつもりか?
「そもそも、何で来たの私?ついでに式挙げちゃってもいいけど、あの2人に全部持って行かれそうな気がする」
志保も戸惑っていたようだった。
その時、顔を見せたのは、島原の父親だった。島原教臣、地元の役場の職員だった。
「お前の友達は、仲がよくていいな」
ビールを注いで、父親は居住まいを直した。流石は警視庁の刑事の父親、といった所作だった。
志保も、ピリッとして居住まいを直していた。
父親は、志保と息子にそれぞれビールを注いで言った。
「お前達も、もっと堂々と仲よくすればいいんだ。あれほどじゃなくても。天草さん、雪次をよろしくお願いします」
役場勤めだけあって、全く訛りもなく言った。
「いいえ。こちらこそ。お義父様」
頭を下げた志保の肩に手を置いて、島原は、
「ああ。ちょうどよかった。1つ提案があるんだが」
島原の言に、父親は即座に反応した。
「じいさんの事件が片付いたら、構わん。もう転勤願いは出してあるしな。勘解由小路君か?彼にも言われた。所詮我々は異邦人だ。彼等のスタイルから言って、今後必ず孤立していくだろう。私も、じいさんのオラショは知らない。村の古老が、何を話しているのか、まるで理解が出来ていない。同郷であるにもかかわらずだ。ただ、村で何かがある度、彼等はこっちを見るんだ。正直、薄ら寒くなるような視線だった。さっさと出ちゃえよという、彼の言葉は正しいと思う。長崎市に行ったら、シーバスを釣ろうと誘われているしな?ロングAというルアーも、もらってるし。あれは凄いらしいぞ?勘解由小路君は、あれでバラマンディーすら釣ったという話で」
確かに。ここまで自覚しているなら、転居もやむなしという、馬鹿の言は理解出来た。
「シーバスか。久しぶりにやってみようか。いいか親父、ジャークベイトの使い方は」
少し酒が回っていた。朗らかに趣味の話に付き合おうとしたら、向こうから、
「きゃあああ♡降魔さん♡そこは違います♡そこは私のおっぱいでしゅ♡」
「わはは!おっぱい!おっぱい!新妻のパンパンに張っちゃったおっぱい♡」
死ぬまでやってろ、馬鹿共め。
島原はそう思っていた。
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