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秘されたもの
浦上天主堂では、勘解由小路夫妻の結婚式が、佳境を迎えていた。
本来であれば、キリスト教徒でなければ式は挙げられないはずで、実際、志保の中では選択肢としてあったのは、まあ間違いなかった。
洗礼受けてないもの。私。仏教徒だし、一応。
幼い志保の夢は、念仏によって打ち砕かれていた。
幾ら積んだのだろう?勘解由小路が食われそうになって見えた。
何も、チャペルの外でまで、ヘビーペッティングしなくてもいいのに。
ライスシャワーを、面付きの黒子装束が、一生懸命投げていた。
いけない、写真を撮らないと、ゼクシイもかくやといった構図で、お願いしますとか、無茶苦茶言われていたし。
ちゃんと撮らなきゃ、諫早さんが泣いちゃいそうだし。
「きゃああ♡志保さん♡よろしくお願いします!私達の愛の伝道者として!」
伝道する気はあんまり。私雪次君ほどキリスト教詳しくないし。
雪次君は、教会の建築様式や、歴史について、それは詳しく志保に教えてくれてはいた。
ファンダメンタルともリベラルとも、彼は距離を置いていたはいたが。
志保、君はどの教会で式を挙げたい?
この前、プロポーズを受けたあと、裸でベッドにいた私に、雪次君は言ってくれたのだが。
ウェストミンスター寺院?とか、ああ、ワット・アルンとかはどう?ああ、エメラルド仏を戻して、とか?
それはタイの寺だろうに。アユタヤ遺跡と変わらんぞ?
まあそうなの。私、奇麗なお姫様みたいな式を挙げたいだけなのよねえ。
ちょっと少女チックな夢くらい見たかっただけで。
ん。肩にキス?今日?いいけど。
島原の首に、両手を伸ばしてその日は終わった。
正直、雪次君の村に帰ったって、何とも思ってないんだけど。
あ、諫早さん凄い奇麗。本当に。
思わずシャッターを切っていた。
「っていうか、私はどうしてここにいるの?雪次君と、彼の実家に帰ったのに、全然楽しくないんだもの」
彼、あんまり子供の頃の話とか、してくれないのよね?昔懐かしい思い出話とか、聞けると思ったのに。
「そりゃあまあそうだろう。あいつの子供の頃?つまらんだけだぞ?ボッチ街道を満喫してたってだけだ。あいつは今、ようやく子供心の孤独感の意味を知ろうとしているんだ。というか、ひたすらヌメっとした記憶を反芻している」
突如、現れた勘解由小路に言われて、志保はたまげていた。
「ちなみにあれだ。胸元がざっくり開いたドレスの中は、パンツを履いていなくてだな?控室にはベッドがあったし。あれは、諫早が指定したんだろうな。ノーパンで、黒いガーターベルトの諫早が、ドレスのスカートをご開帳した時、秘されていた諫早のマリア様は、首にエロ蛇を巻いていてな?あとコサージュ可愛かったな」
勘解由小路はメロメロにされていた。
「あれ?諫早さんは?」
「着替えだ。ドレスを着たまま市内観光やりかねんのでな。それで、少し時間が出来た。それで、Gカップ眼鏡おっぱい、本気でするのか?あいつと結婚」
志保はカチンときた。未だに名前でなく、眼鏡おっぱいとか、ぞんざいに呼ばれていることに。
Gカップだけど、何?どうせ今Iカップらしい諫早さんには敵わないし。
「当然よ。雪次君は、式の当日に私のお母さんと浮気したりしないもの」
志保の当てこすりに、勘解由小路は少し顔をしかめていた。
「ああそうか。意外というか何というか。こないだの、アケロンティアの時に、プロポーズされたって言ってたな?」
噓。諫早さんから聞いた?
「ああ。諫早は言ってないぞ?まあ指輪をちょいとな?」
指輪って。
ああ。雪次君が言ってた、ずるって、それ?
「何でも知ってるのね?貴方。凄いじゃない。指輪って。それは、このままいくと、私に嫌われるって情報とかは、ないの?」
「そりゃあ何となくは、な?一応、あいつは大事な友達ってのはある。その彼女に対して、少しくらい対応が塩辛くても、許して欲しいな。ああそういえば、あれとはちゃんとキレたのか?あの妻子持ちのミステリー作家とやらとは」
志保は息を飲んだ。改めて、その恐ろしい洞察力が、自分に向いていたのが解った。
確かに、島原と付き合う前、志保は、不倫関係にあったのだ。
お定まりの、編集者と作家の爛れた関係があった。
島原は、とうに知っていた。
その上で、何も言わずに自分を受け入れてくれたのだった。
「ミステリーだよな?ミステリっていうと、途端に馬鹿っぽく見えるのは何でだろうな?インテリ気取りってとこか?要するに、取るに足りない謎とも呼べないような隠し事を、詮索するのがミステリなんだな。今頃、あいつは気味の悪い思い出に浸ってるだろうさ。別に気にする必要もないんだが。お前というおっぱいがいて、隣には俺がいるってのにな?本人が覚えてないって、そりゃあ相当に下らない思い出だろうしな」
「本当に嫌な人ね。それで、雪次君のことも、もう見抜いているんでしょう?」
「ああ。ほら正に。奴から電話だ。こちらジャマイカ大使館」
ふざけているのかお前は?!電話口で、元気な怒号が聞こえてきた。
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