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勘解由小路はよく言っていた。
怪奇事件ていうものは、どこか、方法論が秘されているものだ。それさえ解ればあとは容易い。
確かに。島原が知りようもない事件ばかりだった。
どれだけ凄惨で、血腥くても、あいつが隣にいれば。
島原は、意を決して電話をかけた。
「こちらジャマイカ大使館」
ああ、馬鹿だ。馬鹿がいた。
島原は、暗中で、輝く一つ星を掴んだ気がしていた。
「ふざけているのかお前は?!」
嬉しそうに怒鳴るな。同期の桜。勘解由小路はホッとしていた。
「何か、現れたか?」
発狂寸前まで追い詰められていたか。この真面目君は。
電話口で、島原がたまげたのが解った。
「ああそうだ。お前こそどうなんだ?何が解ったんだ?この村のことが」
即答するくらいの精神的平静は保っているんだな。流石だ。
勘解由小路は、やはり即座に応えた。
「別に起きちゃあいないだろうに。どうってことない話だろうボッチ君。ただそれを確認出来ただけよかった」
射殺するぞ。お前は。話しながら、みるみる回復していっているのが解った。
「気にすんな。お前がボッチでかえってよかったのかも知れんし。それとな?何故、お前の村が世界遺産にならなかったのか。それがさっき解った。あのな?俺が何となくで世界遺産観光なんかすると思ったのか。潜伏とは全く無関係だった。まあ普通の、退屈なカトリックだった。問題は隠れてる方にあった」
それは、俺の村だ。
「そうだ。お前んちだ。そもそも何故隠れていたと思う?禁教令か?それとも被差別意識か?違う。連中が秘していた信仰そのものだった訳だ。天主堂の司祭から話を聞いてきた。一度、足を踏み入れて逃げ出したんだそうだぞ?逃がしてくれたのは、お前の曾爺さんだったそうだ。まあ、天主堂の司祭になるような奴が、あそこに行けば無事じゃ済まんだろうな」
「曽祖父が?何があったというんだ?」
「奴等の拝んでいたものは、葦舟に乗ってやってきたんだそうだ。ああ、そろそろ諫早が帰ってくるな。島原、納戸神を探せ。そこに答えがある」
納戸神。納戸に隠された、キリシタンの証。
「だが、実家には何もないぞ。祖父が全て捨ててしまったらしい」
「そんなのは、釣りの話ついでに親父から聞いた。お前の曾爺さんがカギだ。その曾爺さんが、死ぬまでそれなりの立場にいたことを忘れるな。必ずある。オラショを唱える礼拝堂が。お前の村な。あそこはベツレヘムだ。探せ。行ったことがあるだろう?俺とアホの3人でわざわざ。あ!もう帰って来たのか♡可愛い諫早♡スーツルックのお前のプリッとした尻がもう♡なあ島原、俺はこれからエルサレムに行く。諫早というメスロバの背に乗って。3日経っても俺が帰らなかったら青森だ。青森さ行け。きっとわの墓は青森の戸来村の丘の上にあ」
途中で電話が切れた。呼び出したが、繋がらなかった。
背に?大体知っている。この馬鹿、前に俺が志保を抱いた時、その図でまあ。
志保の汗ばんだ背中と、馬鹿の馬鹿面が交互に見えて、それで、
「青森の戸来村に、お前の墓なんかあって堪るか馬鹿めえええええええええええええええええええええ!!」
繋がっていない携帯に、島原は吠えていた。
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