動き出した事態

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動き出した事態

 薄暗い洞窟の奥に、私と志保さんは、管理官のご両親と共に、突如拉致されていたのだった。 「降魔さんが、何か、やらかしたのでは?最近、私がご飯を作る度、エリ・エリ・レマ・サバクタニ(神よ。何故俺を見捨てるのかおい)とか言っていましたが」  ああ、諫早さん、料理苦手なのね?志保はそう思っていた。 「まさか、村人全員とはね?一気に入ってきたのよね」  そう。ここには、全ての村人が、大人も子供、老人までもが揃い、鉛のような目で、志保さん達を見つめていた。  村人は、誰もが意味不明な文言を、鉛のような目で唱えているようだった。 「何でしょう?何がしたいのでしょうか?」 「だが、これで、おおよその構造は掴めただろう」  同じく囚われていた、島原の父親は言った。 「村長に助役、漁協関係者。なるほど、彼等が爺さんを」  列の中央に固まっていたのは、村長以下、15人ほどの集団だった。 「村長さん。村長さんですよね?私達を解放してください。島原管理官の曽祖父殺害に、加担したと言っているようなものですよ?これでは」  鉛のような目をした、村長が応えて言った。 「あれは、ばるたざるのふりをした、ただの需脱(じゅだつ)じゃて、御前様が聖なる塩で罪を洗い流したんじゃ。おお、御前様、御前様じゃあ。我等をお導きくだされ」 「聞いているようで、全く聞いていません彼等は。御前様とは?あのヒッピー風の男ですか?」 「彼は――村の者ではないな」  島原父が言った。  薄汚れた灰色の男は、志保さんを指差して言った。 「さんたまりや」 「――はい?」  ついで、島原の両親を指差した。 「なざれのよぜふ。聖母まりや様。聖餐をもって、さんと様にさいわいを。でうすは坂の上で待つ」 「何を言っているのでしょう?モノクルを外そうにも、彼等はこちらを見ているようで、まるで見ていませんし。これでは邪眼が使え――え?」 そこで、私は妙なものを見た。村長以下、15人が、揃って、首を奇妙に伸ばしていた。 「さんと様はパライソに至る。聖餐を」 「ぎ、ぎゃあああああああああああああ!」 「んぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!」  志保さんと私は、揃って悲鳴を上げていた。  村人は、全員が、その体から首を切り離し、巨大な蛞蝓と化して、こちらに這い出してきたのだった。 「ひいい!蛞蝓ですか?!蛞蝓は駄目です!生理的に受け付けません!」 「ぎゃあああ!気持ち悪い!諫早さん落ち着いて!三竦みは迷信よ!蛞蝓を食べる蛇もいるんだから!イワサキセダカヘビとかナンアナメクジクイとか!」 「いいいやああああああ!駄目なものは駄目です!こっちを見ていません!邪眼が使えません!いやあああああああ!降魔さん降魔さん降魔さん!」  蛞蝓達は、争うように私達に迫りつつあった。
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