斬獲始まる

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斬獲始まる

「有体に言えば漂着神だ。恐らく当時、鎌倉平安よりもはるか昔、それを見つけた村人がいたんだろう。海からくるものの恐怖は、古代から存在していた。その洞窟の奥にいたものと、村人は1つになった。その血脈は代々続いていたが、何かのイレギュラーが起きて、塩が効かないお前が生まれたようだ。ハッキリ言って、そいつは異教極まりない神だった訳だが、いつしかキリスト教的教義を飲み込み、変容しまくった隠れキリシタンが醸造された。その理屈においてもそうだが、どうにも奴等は救世主を待っているようだ。まあ画面隅で座ってればいいと思うんだが。そんな訳で、お前は排斥されてなんかいなかったし、孤立してもいなかった。ただ、理解できない理屈で、崇められてただけだった。あの、お前が着るはずだった浴衣はもろキリストの象徴だ。葡萄の木の衣を着て、赤い衣の信徒を導く義務が、お前にはあったんだろうな。なのに、お前の曾爺さんは、お前にその義務を履行させなかった。故にその権威は完全に失墜した。死んで当然と思っているんじゃないか?奴等の死の定義が、人間と同じかどうかも、最早解らなくなってる」  片手で、丸まったホースを海中に投げ込んで、勘解由小路は言った。  放水機のノズルの作動を確認しながら、島原は言った。 「実はそうだったんだと、曽祖父に言われたところで、納得したかどうか。それよりもな、奴等が言っていた、さんと様とは?彼等が崇めるものとは一体?」 「隠れキリシタンで言えば、さんと様は聖霊だ。即三位一体でお前のことなんだろうさ。葦舟に乗って流されたものは1つしかないだろう。離散集合し、変容したものを崇めるのが隠れキリシタンだ。奴等は出会った。邪悪な秘神を崇め奉る村だ。まともではない。幾ら教義がかち合っていても、そもそも連中の神は造物主なんかではない。得体の知れないものを拝んでるのがお前等だろうに」 「あまりに失礼じゃないか。本物の隠れキリシタンに対する侮辱ととられるぞ」  うるさいなあこのボッチキリストは。ぶーを垂れて勘解由小路は言った。 「だから隠れたんだろうが。ヒルコなんかを拝む奴等を殲滅だ。準備はいいか?」 「ああ。もう迷いはない。行くぞ。勘解由小路」 「ホースは十分に長さがある。異端審問に行くぞ!乗れ島原!」  轟さんが曳く人力車が、恐ろしいスピードで動き出していた。    洞窟の入り口に立っていたのは、乾物屋の倅の、外間和幸(とまかずゆき)だった。  ぼんやりと、外を見ていた和幸は、高速でこちらを目指す、彼等が待ち至る救世主の姿を、ハッキリ目撃した。 「あ?さんと様?」  それが、彼の最期の言葉だった。  突如、和幸は海水を高圧で浴びせかけられ、忽ち骨と化していた。  これから、身も蓋もない斬獲が始まる。島原は、故郷を滅ぼす為の行動を、今、開始していた。
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