マグダラ

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マグダラ

 その後、呼び出された長崎県警は、大勢を引き連れて、この村にやってきた。  島原によって、おおよその真相が語られたのだが、村人鏖殺の結果として、警視庁怪奇課の名前を出したのだが、 「またあいつか?!ああお前!何が彭侯(ほうこう)だあああああああああああ?!」  火に油を注ぐ結果になっていた。 「あああ。だから言ったのに。お前がデマ人間だった所為で、この辺の警察を総当り的にだな。まあ、やっといた」  春先の、彭侯事件のことだった。 「結局!お前の所為だろうに!」  勘解由小路は、島原にめっちゃ怒られていた。 「ただまあ、何も素直に村人皆殺しにしました。とか言わなきゃよかったんだ。せっかく御前様がいたんだからさ、何でも行けただろうに。名状し難きデロデロのルシファーが、降臨したことにするとか」 「そんな嘘が吐けるか!もう遅い!このことは本庁にも伝えてある!正当防衛だとしても、あれだけの怪奇を起こしたんだ。何がしかの責任を取らなければな。結果、本庁を離れることになっても、後悔はない」  ふん。勘解由小路は、何か不服そうだった。 「ああそうだ。お前のマグダラはどうする?」 「ちょっと待ってろ」  島原は、家族の元に近付いていった。  心配だったのは、未だに毛布で包まれ、怯えている母親だった。  志保の妊娠の件では騒いでたのにな。 「親父」 「ああ雪次。母さんはまだ震えている。まるで悪夢のようだ。志保さんが抱きしめてくれていて、助かる。いい嫁を、貰ったな」 「ああ」  そう言って、島原はうしろの馬鹿を見て言った。 「俺や、志保が塩で死なないのは幸いだったが、この村で生まれ育った、俺の両親は、何故だ?」 「奇跡に説明は要らんだろう。曾爺さんの祈りの結実が、お前達だったんだろうさ。ああ、前の曾爺さん名前は?」 「ああ、次郎だった。島原次郎」 「あああ。次郎かそうか。ヨハネだったのか。サンジュワンだな?洗礼名ヨハネのひ孫が、お前で、奇跡の子として生まれた。ヒルコの要素を受け継ぎ、それでも、お前が生まれた。神ってのは、よく解らんが、結構皮肉屋なのかもな」 「そうだといいんだが」  そう言って、島原は、母親を抱きしめていた、志保の前で跪いた。 「天草志保さん。こんなことに巻き込んでしまって、済まないと思っている」  志保は、一度、母親から手を放し、島原と向かい合っていた。 「どうやら、俺は、妙な血脈の元に生まれたらしい。だが、幸いにも俺は、頭と胴体は離れないらしい。改めて、君に告げたい。こんな俺とでも、結婚してもらえるだろうか?」 「断った場合、この子の、シングルマザーになるって、こと?雪次君」  お腹に手を当てて、志保は言った。 「でも、この子には、お父さんが必要だと思う。こちらこそ、マグダラだけど、それでも、いいの?」  勘解由小路の奴、余計な情報を。 「どうか、どうか頼む。島原、志保になって欲しい」  長い、長い沈黙を、島原は耐えた。 「うん。よろしくね?雪次君」 「よーし!親父達を市内のマンションに置いて、帰るぞ島原。あと嫁眼鏡」 「おめでとうございます。志保さん。刑事の嫁の先達として、多少の蘊蓄はあります。頼っていただいて、いいんですよ?ママさん?」 「よし島原。帰ったら出し物の練習するぞ。まずは塩バターパンを分けるところから始めろ。帰って来たヨシュア三四郎」 「もういい!黙ってろお前は!」 そう叫んで、島原は、親友の勘解由小路と肩を組んだ。  向こうで、朝日が昇ろうとしていた。  そして、足取りも軽く、島原は怪奇課のドアを開いた。 「よう。クビになったのか?」  馬鹿は、相変わらずふんぞり返って、ピタ止めチャレンジをやっていた。 「黙れ。処分の結果が決まった。これより、俺は怪奇課長になった。お前の上司ということになる。今後は、この前のような乱暴な捜査は認めんから覚悟しておけ。それと、勝手に休むなよ?お前は」 「けっ。1人だけ、ウィリアム・ホールデンみたいだったくせに。いいか、怪奇課の課長ってことは、お前も怪奇人間ってことになる。この前の雷、もう少し上手く撃てるようにしとけよ。お前」 「うん?ああ、それならな。見ていろ」  島原が集中し、外の街路樹に、連続して3発、落雷が降り注いでいた。 「この上で、お荷物にだけはなりたくなかったんでな」 「サンダーが、サンダラくらいになったか。ふうん。そうか、怪奇課へようこそ」  勘解由小路が、どうでもよさそうに言い、また、怪奇な人間が、その門戸を叩いたのだった。 了
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