里帰りはプライベートジェットで

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里帰りはプライベートジェットで

 その日の午後、勘解由小路と羽田で合流した島原は、疲れ切った様子の馬鹿と、あっさり購入された、巨大な恐ろしいものを呆然と見上げていた。  多分、エアフォース・ワンかそれに近い機体だろう。  非武装であることを祈るしかないのだが。  エアフォース・ワン。早い話が大統領専用機だった。 「結構広いぞこれ。買ってよかった。さっさと乗り込もう」  足が、生まれたての子鹿みたいになっていて、諫早君に支えられていた。  改めて、勘解由小路という男。  恐ろしいまでの財力を有していた。  島原は思い出した。初めて会った時、俺の横のシートに座れよ。とか言って、ファーストクラスを示されていたし、ファーストクラスに乗れない、乗り損ねた残念な人の為の予備シートが、確かビジネスクラス、あとは手荷物倉庫しか、飛行機にはないと思っていたのだこの馬鹿は。  エコノミー?学者専用シートなんてもの、あるのか?  エコノミーを、経済学者専用シートか何かだと思っていたのだこいつは。  ファーストクラスのシートの1/3を借り切ったこの馬鹿は、乗って早々ワインをがぶ飲みし、CAをナンパしている有様だった。  イギリスに着いて、馬鹿馬鹿しい気持ちで、ホテルに行こうとすると、「おい、お前のホテルはこっちだぞ?」とか言って最高クラスのホテルのスイートに連れて行かれていた。  1時間ほど経って、例のファーストクラスのCAが3人やって来て、朝までひっついていたのだこの馬鹿は。 「だがなあ、流石に疲れたぞ。諫早と車でしまくったしなあ」  キャン♡尻を撫でて馬鹿は言った。 「三田村さん。頼む」  一瞬で、馬鹿夫婦は機内に消えた。空になった箱ティッシュを1つ残して。  滑走路にゴミを捨てるな。  箱を拾ってタラップを志保と登ると、  大きすぎるリクライニングシートに座って、馬鹿は今まさに諫早君と合体しようとしていた。 「おい!乗せてもらってあまり文句は言えんが、そういうのは控えろ!」  もうこの馬鹿の股座など、見飽きてきた。志保はどうだったろう?見ていないと助かる。 「あん?おう済まん。諫早が可愛すぎてな?」 「申し訳ありません管理官。降魔さんがカッコよすぎてフィーディングスイッチが」  物凄いラブビームを、今も照射していた。 「うん。そんな訳で、疲労困憊なのに捕食されそうになった。美味しく」 「とにかく控えろ。あまり大っぴらだと逮捕せざるを得んぞ。志保、君も空いているシートならどこでも」  志保は完全に呆気にとられて、言葉を失っていた。  里帰りで、同期の男がこんな機体を持ち出されてはそうもなろう。 「このシートはあれだ。リクライニングしたらベッドになるなまんま。シートベルトランプが消えたら奥に移動しよう。いっぱいペロペロしような♡轟さんに操縦任せてさっさと飛び立とう。島原と眼鏡の貧相なカップルの里帰りに、ちょっとした彩りをくれてやろう」  島原は、強い怒りに震えていた。
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