5人が本棚に入れています
本棚に追加
里帰りはプライベートジェットで
その日の午後、勘解由小路と羽田で合流した島原は、疲れ切った様子の馬鹿と、あっさり購入された、巨大な恐ろしいものを呆然と見上げていた。
多分、エアフォース・ワンかそれに近い機体だろう。
非武装であることを祈るしかないのだが。
エアフォース・ワン。早い話が大統領専用機だった。
「結構広いぞこれ。買ってよかった。さっさと乗り込もう」
足が、生まれたての子鹿みたいになっていて、諫早君に支えられていた。
改めて、勘解由小路という男。
恐ろしいまでの財力を有していた。
島原は思い出した。初めて会った時、俺の横のシートに座れよ。とか言って、ファーストクラスを示されていたし、ファーストクラスに乗れない、乗り損ねた残念な人の為の予備シートが、確かビジネスクラス、あとは手荷物倉庫しか、飛行機にはないと思っていたのだこの馬鹿は。
エコノミー?学者専用シートなんてもの、あるのか?
エコノミーを、経済学者専用シートか何かだと思っていたのだこいつは。
ファーストクラスのシートの1/3を借り切ったこの馬鹿は、乗って早々ワインをがぶ飲みし、CAをナンパしている有様だった。
イギリスに着いて、馬鹿馬鹿しい気持ちで、ホテルに行こうとすると、「おい、お前のホテルはこっちだぞ?」とか言って最高クラスのホテルのスイートに連れて行かれていた。
1時間ほど経って、例のファーストクラスのCAが3人やって来て、朝までひっついていたのだこの馬鹿は。
「だがなあ、流石に疲れたぞ。諫早と車でしまくったしなあ」
キャン♡尻を撫でて馬鹿は言った。
「三田村さん。頼む」
一瞬で、馬鹿夫婦は機内に消えた。空になった箱ティッシュを1つ残して。
滑走路にゴミを捨てるな。
箱を拾ってタラップを志保と登ると、
大きすぎるリクライニングシートに座って、馬鹿は今まさに諫早君と合体しようとしていた。
「おい!乗せてもらってあまり文句は言えんが、そういうのは控えろ!」
もうこの馬鹿の股座など、見飽きてきた。志保はどうだったろう?見ていないと助かる。
「あん?おう済まん。諫早が可愛すぎてな?」
「申し訳ありません管理官。降魔さんがカッコよすぎてフィーディングスイッチが」
物凄いラブビームを、今も照射していた。
「うん。そんな訳で、疲労困憊なのに捕食されそうになった。美味しく」
「とにかく控えろ。あまり大っぴらだと逮捕せざるを得んぞ。志保、君も空いているシートならどこでも」
志保は完全に呆気にとられて、言葉を失っていた。
里帰りで、同期の男がこんな機体を持ち出されてはそうもなろう。
「このシートはあれだ。リクライニングしたらベッドになるなまんま。シートベルトランプが消えたら奥に移動しよう。いっぱいペロペロしような♡轟さんに操縦任せてさっさと飛び立とう。島原と眼鏡の貧相なカップルの里帰りに、ちょっとした彩りをくれてやろう」
島原は、強い怒りに震えていた。
最初のコメントを投稿しよう!