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【1】
文化祭まであと23日
部屋の壁に貼ったその紙を見て、航希はイメージを膨らませた。
生演奏につつまれる体育館、ノリノリの生徒たち、女子の黄色い歓声――
それだけじゃない。実際に、今回の文化祭にはテレビ局も取材にくる予定になっている。
彼らの目的は全国男子高生クールボーイコンテストで優勝した一橋航希だ。
――へっ。一気に有名人になれるかもな。
航希は上唇を舐めた。
文化祭で航希はバンド演奏をする。担当はボーカル兼ギター。まさにバンドの花形だ。
「さて、もうちょっと練習するか」
航希はギタースタンドからギブソンレスポールを取った。
マーシャルのアンプの電源を入れ、歪みを強めていく。
ジャージャジャジャジャ、ジャージャジャジャ
攻撃的なエレキの爆音が、航希の八畳の部屋を振動させる。
演奏予定の曲を歌いながら、ステージで華麗にパフォーマンスする自分を妄想する。
つい興奮して、ピックを持つ指につい力が入る。
C♯mのコードを思いっきり弾いたときだった。
バチン!!
線のように細い1弦が切れて、航希の頬をかすった。
「最悪……」
舌打ちをして、ギターをスタンドに立てかけた。弦が切れるなんていつぶりだろう。
そのとき、スマホから着信音が鳴った。
相手は同じバンドのメンバー、ベース担当の燈矢だった。
彼の声は震えていた。ひたすら「どうしよう、どうしよう」とくり返している。
「おいおい、どうしたんだよ」
「航希、おまえまだ見てないのか」
「なにを」
「ネットニュースだよ。どうしよう……」
「だから何なんだよ」
航希が怒鳴った直後、燈矢は一拍置いてから話した。
「斗夢が逮捕されたんだよ」
斗夢は同じバンドのメンバーだ。
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