罪のきおく

1/16
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
【1】 文化祭まであと23日 部屋の壁に貼ったその紙を見て、航希(こうき)はイメージを膨らませた。 生演奏につつまれる体育館、ノリノリの生徒たち、女子の黄色い歓声―― それだけじゃない。実際に、今回の文化祭にはテレビ局も取材にくる予定になっている。 彼らの目的は全国男子高生クールボーイコンテストで優勝した一橋航希だ。 ――へっ。一気に有名人になれるかもな。 航希は上唇を舐めた。 文化祭で航希はバンド演奏をする。担当はボーカル兼ギター。まさにバンドの花形だ。 「さて、もうちょっと練習するか」 航希はギタースタンドからギブソンレスポールを取った。 マーシャルのアンプの電源を入れ、歪みを強めていく。 ジャージャジャジャジャ、ジャージャジャジャ 攻撃的なエレキの爆音が、航希の八畳の部屋を振動させる。 演奏予定の曲を歌いながら、ステージで華麗にパフォーマンスする自分を妄想する。 つい興奮して、ピックを持つ指につい力が入る。 C♯mのコードを思いっきり弾いたときだった。 バチン!!  線のように細い1弦が切れて、航希の頬をかすった。 「最悪……」 舌打ちをして、ギターをスタンドに立てかけた。弦が切れるなんていつぶりだろう。 そのとき、スマホから着信音が鳴った。 相手は同じバンドのメンバー、ベース担当の燈矢(とうや)だった。 彼の声は震えていた。ひたすら「どうしよう、どうしよう」とくり返している。 「おいおい、どうしたんだよ」 「航希、おまえまだ見てないのか」 「なにを」 「ネットニュースだよ。どうしよう……」 「だから何なんだよ」 航希が怒鳴った直後、燈矢は一拍置いてから話した。 「斗夢(とむ)が逮捕されたんだよ」 斗夢は同じバンドのメンバーだ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!