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「オレたち付き合ってたっけ」
そこまでいって、自分がひどいことを口にしていることに気づいた。
「それまで忘れちゃったの」
乃亜はメガネの奥からまっすぐな視線を航希に送った。
「いや、うん。ええっと、覚えてるよ。ジョークジョーク」
狼狽した。
「いいの。中学1年のことだしね」
電車が揺れる音だけが静かに車内に響く。疲れきった大人たちの眼は、この世界をひどくにごらせていた。
次の停車駅に到着した。
「じゃあ、また明日ね」乃亜は唇の端をぎこちなくあげて去っていった。
航希は中学時代の乃亜との思い出をふりかえった。
そういえば、「オレたち付き合おうか」みたいなことをいったけな――
でもアレはたしか。
記憶の扉をすぐに閉じた。考えるのもめんどくさい。
それよりピアたんとのDMのほうが優先だ。
≫なんとドラム決まりました。3日後の文化祭は間に合いそうです!
≫すごーい!がんばってね。 当日、もしかしたら文化祭に応援行けるかもです!
「え、マジかよ!」
航希は座席から飛び上がってつぶやいていた。
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