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30分後。
航希は燈矢とファミレスで待ち合わせをすることにした。
8月最後の夏の風は妙になまぬるかった。
テーブルで向かい合った二人は長い沈黙状態を続けた。
店員の2回目の「ご注文は?」でようやく「ドリンクバーふたつ」とだけ答えた。
「ドラム、どうしようか」
切り出したのは航希だった。燈矢の長い前髪を見た。
「もうバンドなんて厳しいんじゃないか」
彼は諦めたようにぼやく。
「は? 何のためにずっと練習してきたんだよ」
「さすがにドラムやってるやつなんていないだろ」
「探そうぜ。まだ間に合うって」
「あと3週間しかないんだぞ」
「やる前からあきらめんなって」
「見つかっても、練習が間に合うかどうか」
「間に合うように鬼努力すんだよ」
「それに、仲間が逮捕されたんだぞ。文化祭なんて気分じゃないよ」
「関係ない。高校生活最後の文化祭だぞ」
「そうだけどさ」
「しかもその日はテレビ局もくるんだ。有名になれるビッグチャンスじゃないか」
「テレビ? おまえは斗夢のことがどうでもいいのかよ」
「そんなことはいってねーよ」
「だったら」
「ゴチャゴチャうるせー!」
航希は立ち上がりテーブルを手のひらでたたきつけた。
燈矢は肩をびくっとすくめる。
「ドラムはオレが絶対探すから。おまえはベースだけ練習しとけ」
去り際、航希は燈矢の襟首をつかみ、
「オレに恥かかせんなよ」
吐き捨ててファミレスを出て行った。
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