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貧乏ゆすりがとまらない。
指は無意識に机を叩きつづけている。メンバーが見つからない苛立ちのせいだ。
授業中、航希はずっと外を眺めていた。灰色の空は時々青空をのぞかせては、またすぐに分厚い雲に覆われる。台風の影響だろうか。
「一橋くんやぁ、授業聞いてるのかぁ?」
日本史教師の森岡が間延びしたような声で航希を注意した。
「うっせーな……」
聞こえないようにつぶやいた。
「おやぁ、いまなんていったぁ?」
「いえ、なにも。すいませんでした」
口では謝りながらも、ぶん殴ってやるぞといわんばかりに睨みつけた。
授業が終わり、航希は廊下に出た。大股で歩いた。
すでに一週間も探しているのに、音楽をやっているやつすら見つからない。
いたとしても、すでに外部のバンドで本格的に活動しているやつだった。
このままでは、ドラム抜きでの演奏になってしまう。
ありえない。バンドにドラムスがいないのは、ヒトに心臓がないようなものだ。まるで機能しない。
オレの夢はもう叶わないのか――航希の心の風船が破裂しそうだった。
「あぁぁぁぁぁー!!!」
むしゃくしゃして叫んだ。生徒たちの声でにぎやかだった廊下は、すっと静かになった。
航希はかまわず歩き続ける。
階段を下ろうと角を曲がったときだった。
小柄な女子とぶつかった。
その女子は「きゃっ」と短く叫んで両手を顔の前にあげた。
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