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「どこ見てんだよ」
183センチの長身の航希は威嚇するように見下ろした。
そこまで怒ることもないのだが、この女子がわざとらしくぶつかったような気がして、イラっときたのだ。
「ごめんなさい」
丸いメガネ姿の女子は首をひっこめるように謝った。
「あれ?」
「はい」
「てか、お前ってさ」
メガネをかけていたせいですぐに分からなかった。
「あ、同じ中学だった飯田じゃね? 飯田乃亜だ」
彼女の顔をよくのぞきこむ。
「う、うん」
乃亜は照れたように目線をそらした。
「あ〜そっか。同じ高校だったんだな」
「忘れたの?」
「いや、なんとなくは覚えてたけどな」
中学のときも、高校のいまも、毎日何人ものイケイケの女子とラインをしている。
興味のない女子なんて頭のメモリから消えていく。ましてやこんな地味な女。
「わたしは航希くんのこと忘れたことないけどな」
「あ、そう。にしてもこんな暑い日によく長袖着てられるよな」
「日焼けが嫌だから」
「知らねーし」手をあげてその場を去ろうとしたときだった。
航希の脳裏に、乃亜がサックスを演奏する映像が蘇ってきた。
彼女は吹奏楽部だった。しかも、そうとうな実力者だった気がする。
そうだ、あの日、乃亜は音楽一家だと聞いたのだった。
もしかしたら――
航希の胸に希望の光が差し込んだ。
「ところで飯田ってさ」
立ち止まり、振り返った。
「なに?」
「ドラムなんてできたりしないよな」
乃亜はわずかに首をかしげた。
「できるけど。なんで?」
「発見!」
航希は乃亜を抱きしめていた。
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