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 いつもはスウェットの上下を着て、寝ぐせ頭もそのままに、ぼんやりと新聞かテレビを見てスマホに入っている四字熟語ゲームやソリティアばかりしているオッサンかと思いきや、意外な姿を目の当たりにして、ちょっとだけ誇らしく思えた。  朱音の勤務先は、湯島駅から徒歩で数分ほどの距離にある医療機器メーカーで、雇止めになった私に対して自分は正社員だからと威張り散らしていたから、よほど大きな会社だろうと想像していたが、意外にも、こぢんまりとした会社が多いようだ。  スマホの検索サイトで会社のホームページを調べてみたところ、東大医学部が近くにあるとか、その他の地理的な理由があるのだろうか、湯島にはこぢんまりとした医療機器メーカーが集積しているらしい。  地図にも同業他社の名前が敬称付きで書いてあり、製造する工場は別の場所に構えているという形がデフォルトなようだ。  まあ、私には関係ないけれども……。  父の話によると、朱音が営業事務として勤務している部署で、直属の上司にあたる男性から「ならばいい機会ですから、お話ししたいことがありますので、すぐにでも来ていただけませんか?」と打診されたそうだ。理由を確認したところ、その時にお話ししますのでとしか答えてくれなくて、とりあえず出向くしかないという結論に至ったのだった。 「会社の人、お話ししたいことって、なんだったんだろう」    出かける前にひとりごちたとき、母はまだ都合のいい夢にかじりついて、早口で答える。  もし私が同じ立場だったらと訊いた時とは違い、反応が早かった。
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