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家では傍若無人にふるまっていても、外ではおとなしく、静かにしている人もいるし、またその逆で家では隅に追いやられて肩身の狭い生活を強いられているけれど、外では傍若無人で、立場が弱い相手を責め立てたり、追い詰めたり、恫喝したりして浅はかな「お山の大将」気取りを味わっている人もいる。
果たして、朱音はどちらの顔を持っているんだろう。
静かにしていて、あまり目立たないほうでしたなんて回答を得られれば、それはそれで面白い。戻ってきた時に、こっそりチクチクと嫌味を向けるために使う「いい材料」にもなる。
しっかりしないと、朱音ちゃんが困るでしょう?
ちゃんとしないと、朱音ちゃんが大変じゃない。
知るか、もう子供じゃないんだから。
「都心じゃ駐車場を探して、停車するまで時間がかかるからね。母さんは車ならいってあげるなんて上から目線で言っていたけどなあ、そういう立場でもないだろう?配送で客先に行くならそこの駐車場で構わないって話になるが、こちらがご迷惑をおかけしているのに駐車場まで使わせてもらうなんて、申し訳ないじゃないか」
「そうだよ。地下鉄のほうが便利だし、母さんが運動不足なだけ」
ほらね、と私は足を速めて、地上につながる石段を人ごみをぬいがら上り切ると、ささっとゆるやかな坂に挑んだ。
やるじゃないか、と父は感心の声を向けた。
たったそれだけのことでも、私にはすごく嬉しかった。
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