4人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
5
長細い四階建てで、アイボリーホワイトの塗装がところどころ剥げているせいで、灰色のコンクリートがむき出しになってさらされているビルが、朱音の勤務先だと初めて知った。
本人から聞かされる内容とは、まるっきり別な建物で、私も父も首をかしげてしまい「あれえ?」と間抜けな声まで出てきてしまう始末だ。
それ以前に、別に知りたいとも思わなかったけれど。
むしろあいつの口からべらべらと垂れ流される自慢をなかば強制的に聞かされる不快感のほうが強かったし、スルーしたかった。
けれども母に「お姉ちゃんなんだから聞いてあげなさい」と強制してくるから、余計に板挟みで精神的な疲労に悩まされただけ。
嘘つきって本当に、先のこととか考えないようだ。
そう思って、頭の中でほくそ笑む私がいる。
朱音の話ではミラーガラスでコーティングされた、二十階だてのきれいなビルに勤務していて、入り口にはミーティングスペースもあり、カフェまで併設されている広々としたロビーもあり、区役所とは大違いだとバカにされてもいた。画像を見せてよとせめてもの反論をしたときに「妹を信じてくれないなんて、ひどいお姉ちゃんだ!」と激昂されていたから、そこまでは仕込んでいなかったんだなと今になって気づいて、ますますおかしくなる。
話を盛るにもほどがあるし、詰めが甘いし、バレた時の言い訳もなんにも対策していなかったんだろうなと、朱音のわがままで嘘つきで、なのにマウンティング好きな意地汚さがバレバレだ。
最初のコメントを投稿しよう!