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 これじゃあ、会社には失礼だけれども、家から徒歩数分でつくバス停からシャトル式に出ているバスに乗って、三十分以内に到着する区役所と似たり寄ったりじゃないか。終点だから乗り過ごす心配もないし、行きも帰りも座れるし、ワイヤレスイヤホンで音楽を聴きながら居眠りしていれば到着するから助かるし、なにより私はひとつも嘘をついていないし、不満もない。バス通勤なんてダサいとか母と一緒に鼻で嗤っていたけれど、そのままそっくり返してやりたい。戻ってきたら。  区役所だって何十年も修繕なんかしていないし、廊下では雨漏りもしている箇所だってある。だから持ち回りでバケツを置いたり、雑巾を敷いたりしてなんとかこなしている。くすんでいるというか汚れが目立つ外壁も、誰かが蹴った跡や謎の黒い線がこびりついていて、ライトベージュという無難な色にしているせいからなのか、余計に汚らしいというか古臭く見える。  でもまあ、大きさは区役所のほうがはるかに勝っている。  住民票とかの各種申請手続きに対応するための無駄に長いカウンターもあるし、中央玄関はまあまあ広いし地元で収穫できる野菜やメインとなる産業のサンプルや写真を展示するディスプレイラックが両側に置けるぐらいの広さは、じゅうぶんにある。資料室や会議室を含めれば一応十階建てだし、今にも壊れそうなエレベーターもガコンガコンと啼きながら、なんとか現役で動いているから便利だと思う。雨漏りも年明けに修繕されるらしいから、べちゃべちゃと濡れた雑巾をとりかえる作業からも、解放されそうだ。  やや割安な自販機もあるし、食堂もまあまあ食べられる味だし、値段も安いから助かっている。バス停からも近い。  そうだ、雨漏りをのぞけば身の丈に合っている。  給料だってちゃんと振り込まれるし、半年勤務すればちゃんと休暇も支給されるし賞与も出るんだから。
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