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 面接だけで、教授のお気に入りで紹介してもらったから身元はしっかりしているだろうという「昔ながらの」理由をうまく使って、同級生より一足先に内定を得る方法を選んだ。  父からは「教授の関係でお世話になることは悪くないが、ほかの業種や会社も見ておいた方がいいと思うよ」とアドバイスされたが、朱音は嫌そうに眉間へしわを寄せて、別にいいと拒否した。  さすがの母も「もっと大きな会社が、朱音ちゃんにはふさわしいんじゃないかしら?」とやんわり打診したけれども、朱音はそれも突っぱねて、さっさと決めてしまったのだから、よほど就活が嫌だったのだろう。  もともと、厳しいプロセスを経て資格とか欲しいものを手に入れるとか、生きていれば必ずぶち当たる壁や問題から逃げて、楽なほうへ足を進め、要領よくかすめ取ろうと狙って生きてきているんだから、無理もない。  あれこれと自己分析だとか試験勉強や履歴書に書けばそれなりにアピールできる資格を取ることなども、朱音は興味がなく、むしろ敬遠していたから治るはずもない。  宿題だっていつも、同級生に見せろ見せろと迫って、自分で考えてやろうとしないからどうにかしてほしいと、小学校の時から担問題になっていたぐらいだ。注意を受けて、面談する運びになっても母は朱音の味方をして「ケチらないで見せてあげればいいじゃない、どうせ簡単な問題でしょ」と朱音の味方をしていたから、私も「朱音のお姉さんだ」とひそひそ、こそこそと遠巻きに噂される羽目になって、肩身が狭かった。  小学校も、中学校も、ずっと。  高校は必死になって、朱音に「だっさーい」と邪魔されながらも受験勉強して進学校に通うことができたから逃れられたけれど、母にはずいぶんと嫌味を言われた。  父がいないところで、朱音もそれに便乗させて。
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