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 朱音と同じレベルの学校に通ってあげないなんて、お姉ちゃんなのに優しさがないとか、よくわからないことを言われて戸惑ったこともある。  押し入れさえあればと囁かれて、もう引っ越したあとなのに「暗くて狭くて、湿っぽい暗闇」がぶわっとよみがえり、部屋で震えたこともある。  朱音は怯えた私の姿を見て、嬉しそうにどすどすと、重い身体で飛び跳ねて床を揺らして「臆病者、臆病者、生意気なことするからだ」と言って、げらげらと下品な笑い声を、部屋の前であげていた。  思い出すほど、むかむかしてくる。  朱音は朱音で地元では下から数えたほうが早いランクになる高校に「受験勉強しなくていいから」と推薦で合格してからは周囲の忠告……主に、私と父だが……もどこ吹く風で遊び惚けて、昼夜逆転の生活を送りまくっていた。  その結果ぶくぶくに太って、入学式には制服がみごとにぱつんぱつんになって、採寸した業者が悪いなんて逆ギレしたから、不摂生も甚だしい。  あのまま大人になって、悪知恵だけ達者な女になったんだから、本当にむかつく。  私には考えつかないような狡猾な手口を使って、いいところだけを掠め取り「私がやりました」と大きな声でアピールするのだけは必死で、傍から見ればみっともない。格好悪い。横取りされて、泣き寝入りしている人に視線が向けられないように、それだけは完璧にこなすし、嘘も上手だった。  高校での意地汚い「自慢話」をする朱音が記憶からずるずると、いや、どすんどすんと勝手に戻ってきて、吐き気がしそうだ。  滑稽で、ずるくて、痛々しい。  小学生の時から、ちっとも成長していない朱音。  身体だけは大きくなって、あとは酷く怠惰で、ずる賢くて、意地汚い朱音。  そんな朱音を賢いとか、世渡り上手でかっこいいなんて母がちやほやするせいで、あいつはますます調子に乗って、大人になってしまった。身体だけ。
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