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 果たして、会社でも……社会でも、それは通じているんだろうか。  会社は学校と違って年齢層も幅広いし、いろいろな性格の持ち主が集まってくる。朱音と同じように怠惰でずる賢くて、図々しく生きている奴がそのままで生きていけるか、私にはわからない。  しっかりしなさい。  ちゃんとしなさい。  そう言われ続けて、不器用に生きてきた私には悔しさばかりが募る。  ピリピリと耳の後ろが針でつつかれるような煩わしくて、どこか朱音に似ている痛みに粘着されそうになったときに、エレベーターのドアが開く。  父が「ああ、わざわざすいません」と出てきた人物に向かって、最敬礼をした。私も父に倣って、同じようにした。  ひとりは私と同じぐらいか、すこし年上ぐらいの、ずんぐりとした男性。  もうひとりは二十代とおぼしき、顔色が悪い、長くつややかな黒髪をさらりと耳にかけている、痩せた女の子。  どちらも紺色のブルゾンをはおって、胸元には名札をつけている。  下はワイシャツとブラウスだし、たぶんあれが制服みたいなものだろうか、あとは自前のスラックスとマーメイドラインの黒いスカートだ。 「ここまでご足労いただき、こちらこそお手数をおかけします」  男性のほうが頭を下げて、どうぞこちらへと、ドアが開いたエレベーターのほうへと私たちを促した。 「どうぞ……」  消え入りそうな声で、女の子が私と目が合った時に、声を発する。  伏せがちな黒い目は、まつ毛が長く、ナチュラルなベージュカラーをメインにしたアイメイクが、ほどよく似合っていた。  年齢がそうさせるのか、それとも普段の生活がそうさせるのか。  出迎えてくれたふたりを細かく観察してしまいそうな自分を律するように、私も目を伏せて、エレベーターに乗り込んだ。
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